勇者爆誕!?

第1話

王様が俺に会いたいと言ってきたらしい。

異世界から飛ばされてきた人間が物珍しいのだろう。

相変わらずタイツな俺が、荘厳な謁見の間で王様に改めてかけられた言葉が。


「うわぁ、ダサッ!」


うるせぇよ。

シマシマかぼちゃパンツに言われたかねぇよ。

白いタイツはいている男子を見るのは、小学生の学芸会以来だよ。


とは思ったが、口に出さずにいた。

緑の妖精さんがラッパーなネックレス下げているんだから、『ダサい』は間違った見解ではない。


「初めまして。俺はウチダ マサルといいます。先日は不可抗力とはいえ、風呂場に飛び込んで申し訳ございませんでした」


完全に用意していたセリフを棒読みに読み上げた。

これにて自己紹介は終わり、と口を引き結んで顔をあげる。王様も形通りの労いの言葉をくれた。

が、その後がどうも続かない。


王様は何か聞きたかったわけではなく、異世界人を見てみたかっただけなので会話が続かないし。俺だって特に聞きたいことなんかないんだから当たり前だ。


そこで俺は王様が好きそうな話題を振ってみる。相撲とか、柔道とか、プロレスとか、天下一武道会とか。久しぶりに単身赴任から父さんが帰ってきて、会話の間がもたないときにするアレだ。


すると王様は俺の住む世界を手放しで絶賛し、早速自分の国にも取り入れると言い出した。


「ウチ・ダ・マーサルよ。お前の話は素晴らしい。それこそ私が求めていたものだ! そのスポウツとやらをぜひこちらへ伝えてはくれないだろうか? お主に広報大使になってもらいたい」


「ウチダ マサル です」


速攻で訂正する。

《ウチ・ダ・マーサル》って誰だよ。そもそもなに人だよ。人の名前を勝手に《バスコ・ダ・ガマ》みたいな句切りかたしないでよ。

なにじんだよ。


「それに俺はスポーツに詳しくないですよ。あちらに戻ったら本を送るので、こちらで研究なさったらいかがでしょうか?」


バスケ部にいたけど万年補欠だったし、格闘技みたいのは見るだけでやったりしないし。王さま暇そうだし、その方が独自性が出て楽しいのでは?

と、焚き付けてみる。


正直俺は大使なんてどういう人か知らないし、面倒臭そうなことは嫌だったし、何より後二日で帰るのにそんな役押し付けられたくない。


しかし、王様は素敵な勘違いをした。

俺の言葉を『自分で武術を創造したらいい』と、受け取ったようだ。


熱い闘魂がたぎってきたらしく。

近くのゴツい剣を掴むと俺に差し出した。


「褒美をとらぁーす!」


突然の大音声に、切り殺されるのではないかと思って身をすくめた。だが、王様は面白い話や提案にたいして俺にご褒美をくれるつもりだったらしい。


差し出された剣を、俺はぎこちなく受け取った。要らないって言ったらそのまま切られそうなんだもん。


ゴテゴテと宝石のついた金色の剣は、心底俺に似合わなかった。どうしてこの国の宝飾品ってこんなにギラギラでゴツいんだろう。デザインとか二の次なのかな。

しかも何で出来ているんだかすっごく重い。

腰のベルトに通したらズボンがずり下がりそうな程たわんだ。


男のぱんチラなんていただけない。


あー、もう。あー、もう。

と、剣を持て余していると、見かねた近衛兵が背中にしょうための革のベルトをくれた。いい人だ。


「我が流派を創造するとな! マーサルよ。よく申した!」

「だから、《マーサル》じゃなくて《マサル》です」


王様すんごく盛り上がってる。

この世界の格闘技がどうなってるのかは知らないけれど。


まぁ、楽しそうだし。

いいんじゃない?

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