第5話
実際、形のないスライムは、どんな風に移動するのかなぁ。なんて、ぼんやりとした疑問はあった。街道でみた透明なスライムは、ナメクジやカタツムリみたいに這いずっていたから、コイツもそんな風に動くんだろうな。だとしたら、ゆっくり誘導するくらいでいいんじゃないかな。などと考えてた。
舐めてました。スライム。
半端ないです。スライム。
そりゃあもう。ゴム毬みたいにボインボイン跳ねながら飛んできたんですよ。
風呂場でカマドウマを見つけて、不安定な動きに底知れない恐怖を味わったことあります?
あのときの恐怖ですよ。
予想外すぎる動きの気持ち悪さと行ったら。
「うおぁぁぁぁっ!?」
俺はオレンジを放り出して全速力で走り出した。
ポムが無事に木を降りて、村へ向かえたかなど確認している余裕はなかった。何せすごいボインボインが後ろから追い上げてくるのだ。
バスケット部に所属していた頃、褒められた俺の俊足だが、ベンチに座らせられる重大な欠点があった。
そう、俺にはスタミナがない。
早くもバテ始めた俺の視界に小屋が写った。
取り合えずあそこに逃げよう!
ドアを閉めて騒いでいたら、安全に引き付けることも出来るはず。
ありがたいことに鍵はかかっておらず、すんなりとドアは開いた。体を滑り込ませて扉を閉め、横棒に
次の瞬間ドスンと何かがドアに当たり、一瞬たわんだ。間一髪だ。
ホッとしたのも束の間、閂に手を置いて足下に視線を落とした俺が見たもの。それは、ドアと地面にできた隙間から、室内に入り込もうとするスライムの姿だった。
「マジか! しつけぇ!」
ドアから離れて室内をざっと見渡す。
収穫後の作業小屋のようだ。空き箱や裁ち鋏、枝切り用のノコギリなど武器になりそうなものはあるが、相手はスライムだ。
切りつけてダメージってあるのだろうか?
こんなことならナットさんにスライムの急所を聞いておくんだった。
近くにあった鉄の棒でスライムを突いてみる。青い液体が吹き出て俺のブーツの側面を焼いた。
「うわっ! あっちぃっ!」
下手な攻撃はこちらが危なそうだ。
鉄の棒を放り出し、簡単な木のはしごが、ロフトに続いているのを見つけて駆け登る。ロフトの上から階下のドアを見れば、スライムがもう体の半分ほど入ってきている。奴がここにたどり着く前に脱出しないと。
壁に俺がどうにか通れそうな窓を見つけ、降りるためにロープはないかと探す。
だが、無い。
床の片隅に麻袋が積まれているのを見て、そうだ、これを結んでロープを作れないかと手に取る。
だが、そんな時間あるだろうか?
階下を見れば、部屋にはいることに成功したスライムがはしごの下で登ろうと苦心していた。
やるしかねぇじゃん。
腰の剣を抜こうとしたとき、麻袋に描かれたイラストが目に止まった。スライムが粉をかけられているイラストだ。文字は読めないけど、これはもしかして!
俺は中身の入っている袋を開けて、手近なスコップですくうと、はしごの下へ振りかけた。パウダー状の白い粉がスライムにかかると、スライムはもがくように梯子を放した。体から粘液を出して苦しんでいるみたいだ。まるで塩をかけられたナメクジのように。
いける!いけるぞ!
そう判断した俺は、やつの頭上に一袋全部振りかけてやった。
続けてもう一袋。
白い粉は落下すると落ちた勢いで舞い上がり、部屋中を粉塵で覆った。調子に乗りすぎたかも。俺は咳き込みながら窓から顔を出す。
「大丈夫ですかー!」
果樹園がオレンジ色の夕映えに染まる中、遠くからシューさん達が駆けつけてくるのが見える。
俺は急に元気が出て、大丈夫だと手を振って見せた。
「1階に青いスライムがいて、頭の上に、こいつを撒いたところ!」
そう言って俺は、例の麻袋を窓の外で振り回して見せた。
シューさんは『そいつはいい』と笑った。
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