第7話
「でも、俺のいた世界って魔法無いよ。モンスターも居ないし」
「え!? それじゃあどうやって暮らしとるの?」
俺は普段の自分の暮らしぶりを話して聞かせた。爺さんは電気とかガスとか、興味深そうに耳を傾ける。
「すごいねぇ! 面白いねぇ!僕もそっちに行ってみたい!」
「え~」
好奇心で瞳をキラキラ輝かせながら、俺のいた世界に憧れを抱くルシャン爺さん。でも、つれていったら面倒なことになりそうだなぁ。
「あ、あのね。このネックレスあげちゃう」
爺さんはそんな俺の表情を読み取ったのか、機嫌を取ろうとする。『特別だよ』と勿体をつけて取り出したネックレスをみた感想は。
「うわっ。趣味悪い」
思わず本音が……。いや、たぶん着けこなす人もいるはずだけれど、俺には無理だ。だって緑の全身タイツなんだぞ。
893かラッパーしか着けこなせないだろ?
という逸品だ。
「そんなこと言わないで。これね。僕の特別仕様だから。どこでも顔パスよ♪
でも、王さまの寝室にはいかない方がいいね。あの人、忍び込んだ刺客に自分から肉弾戦仕掛けるから危ないよ。そして無敗だよ。オックス君が仕事とられたって怒ってたもん」
俺はムッキムキの王様を思い出した。
自分で返り討ち……
四角く白いマット、もとい。キングサイズのベッドがあると、たぎるタイプなんだろうか。俺は風呂場から早く退散したから助かったのかもしれない。
「それでね。このネックレスには瞬間移動効果があって……はい、君もここをつかんで」
と、ペンダントを差し出される。
爺さんの首から下がったネックレスに掴まると、エレベーターに乗ったときのようなフワッと落ちるような感覚に襲われた。
周囲の景色が回転し、溶け合う絵の具のように不明瞭な影を写す。
俺は乗り物に強くない。
酔いそうになって目をつぶった。
「はい! 目を開けてごらん!」
ジャーンと得意気な爺さんの声に目を開けると、俺たちは美しい花畑の真ん中にたっていた。先程いたらしい城が遠い山あいにうっすらと見える。
「ここはね。《カレードニー山》の中腹にある高原だよ。綺麗でしょ?」
爺さんはどや顔で俺に説明を続ける。
先程のテレポートで気分が悪くなった俺は、柔らかな花の香りと涼しい風に救われる気がした。胃のムカムカが治まっていく。
「テレポートできるのは知っている場所だけだからね。一度につれていけるのはペンダントを一緒にさわれる人数だよ。進化するとまた違うんだけど。それから異世界には行けないから、そこは勘弁してね」
一通り説明が終わると、今度はネックレスを俺の首にかけてやってごらんという。
爺さんの部屋を思い浮かべた。
大丈夫だと思った頃、止せば良いのにうっかり地下牢の事を考えてしまった。
後悔、後に立たず。
気がつくと地下牢にいた。
先ほど俺が座らされていた拘束椅子に、今度は知らないヤツが座らされて、背筋も凍るような悲鳴をあげている。ペンチを持ったオックスがゆっくりと振り向いた。顔に返り血を浴びているのに笑顔は穏やかだ。
「おや? 仕事中なので関係者以外の立ち入りは困りますよ。それとも何かお忘れものですか?」
立ち込める血や何かの焦げる臭いに、乗り物酔い気味の俺は込み上げるものを押さえられない。そのようすを見た爺さんが、やれやれと首を横に振る。
「オックス君、邪魔して悪かったね。僕らは直ぐにおいとまするから、どうぞ続けて」
『助けてくれぇ』と狂ったように連呼する声が重なって、オックス君に爺さんの声が届いたかは分からない。
爺さんは指をパキッとならして転移魔法を使った。何で魔法を使ったのが分かったかと言うと、次の瞬間、俺たちは爺さんの部屋に戻っていたからだ。
完全に酔った俺は、せめてものマナーと実験台の流しに頭をつ突っ込む。腹の中が裏返りそうになりながら
「ペンダントを使うときはちゃんと集中してね。そうじゃないと、さっきみたいな事になるから。ね?」
こうして、俺は魔法のアイテムを手に入れた。
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