第3話
観音開きの重厚なドアをようやく見つけ、そっと開けてみる。赤いカーペットの敷かれた広い廊下らしきものが見えた。更にドアを開けて顔を覗かせる。
さて、どっちに行ったら良いだろう? と、廊下を見渡すために顔を横に向けた。
金色の
映画やアニメに出てくる、城とか洋館の廊下に立っているあれだ。ここって本当に何処なのかなと思いながら
と、目が合った。
こちらがその意味を理解する間もなく、丸太のような腕が伸びてきて、俺は胸ぐらをつかまれる。
「貴様っ!どこから入ったっ!」
屈強な男につかみ上げられ、鬼瓦のような顔を
ええぇぇぇぇっ!?
海外の時代劇みたいなシチュエーションだが、一般人の俺からしたらドッキリでしかない。なのに、冗談とは思えないほど、鎧の人が放つ殺気が半端ない。
両手をあげ、無抵抗をアピールしながら『すみません』『迷ったのです』と、悪気のないことを伝えようとしたのだが。
「怪しいやつめ!」
と、引っ
右見てもマッチョ。
左見てもマッチョ。
何これ? どういう状況?
スパリゾートじゃないの?
痛い痛い! 従業員さんがメチャクチャ乱暴!
くっそ~。ツブヤイターにツイートしてやろうか!
レッドカーペットの上を、エージェントに引っ捕らえられた宇宙人よろしく、両脇を固められ引きずられていく。俺は脱げた片方のスリッパが廊下に取り残され、拾われることなく遠ざかって行くのをただただ見つめていた。
豪華さの欠片もない地下へ続く石の階段を下り、松明に照らされたホラーな通路を通って、これぞ地下牢という部屋の1つに下ろされた。
途中、鎧の人が俺を引きずるのを止め、《お姫さま抱っこ》ならぬ《お米さま抱っこ》―肩に担ぎあげるヤツ―に担ぎあげて歩いた。
「おい、お前。隠しだてすると自分のためにならんぞ」
さびた鉄格子の部屋。粗末な木の椅子に座らされて、ドスの効いた声でこう前置きされた後。俺の名前や何処から来たかなど、質問を始めた。
ウチダ マサル 17歳。
日本人で中華的食べ物が有名な県に住んでいる高校生です。
四人家族の次男です。
着ているものは中学の頃に使っていた部活のジャージです。
バスケです……スポーツの。
えっ?
知ってますよねバスケットボール?
……いえ、すみません。
何で着てるんだって。捨てるの勿体ないからです。
ちょっと、個人情報とかどうなってるのと疑いたくなるような質問が続き、少しムッとして来たころ、部屋に黒いローブを着た一団が入ってきた。
仁王像のような、厳つい二人のグラディエーターとは違う。ハロウィンのシーツお化けを黒くしたような一団だ。
その中で一人顔をさらしている人がいる。
微笑をたたえた優しい顔のお姉さんは、俺のそばまでやって来ると軽く会釈してくれた。近づくたびにフローラルな香りが強くなる。
やっと話せそうな人が現れたと思い、俺は胸を撫で下ろした。
「お仕事ご苦労様です。それで、侵入者というのはこの少年ですか?」
お姉さんではなく、お兄さんでした。
声優さんみたいな良い声に驚きながらも、黙って様子を見ていると、先程の鎧の人から俺の供述書らしい書類を受け取り目を通している。
「なるほど、なるほど」
始終優し気な態度を示すお兄さん。なのに、二人のグラディエーターは表情をこわばらせて
やがて俺の引き渡しが終わったらしく、彼らはそそくさとその場を後にする。ドアを出る際に俺に向けられた憐れむような視線が気になった。
「それで、貴方は何をしにここまで来たのかな?」
子供に尋ねるような優しい言い方で、お兄さんは質問する。まるで小児科のお医者さんが『今日はどうしましたか?』と聞くような優しい問いかけだ。
「だから、さっきの人に何度もいったように迷い混んでしまったんです。もう、家に帰りたいんです。 母に連絡してくだされば、迎えに来てもらえると思うので」
『電話を貸してもらえませんか?』と、尋ねたら。『電話?』と呟いてお兄さんは小首を傾げた。
トイレで足を滑らせただけなのに、どうしてこんな事になるんだろう?
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