第4話
ナットが旅の準備をしなければと、言うので俺もついて行くことにした。何しろ明日なのだ。こんな急な予定の入れ方など可笑しいだろう?
とりあえず何を用意したらいいのか、全然わからないから、ついでにナットに教えてもらうつもりでいた。
「ナットくんは旅に出たことあるの?」
「いいえ。初めてです!」
「えっ! 初めて!?」
「はい。初めて自分の領内を出ます」
何で一緒に来るとか言っちゃったの。
気の毒そうな顔をしていると、気付いたナットは俺を不安にさせてしまったと思ったのか弁解する。
「大丈夫ですよ。旅の仕方は友人からよく聞いておりましたし、これでも領地を治める侯爵です。御心配には及びません」
「侯爵って、ナットくんが領主なの?」
「はい。数年前に受け継ぎました」
てっきり侯爵の三男坊か何かと思っていたんだけれど。
ついでに年齢を訪ねてみたら『10歳』と言われてポカンとする。
10歳って小学4年生じゃないですかね?
「我々の種族は寿命が短いのですよ。長く生きても20を超えることはありません。こう見えてわたくしは妻子持ちです。7人の子供と28人の孫と142人の
すみません。
ナットくんではなくナットさんでした。
リア充の大先輩に俺は何ということを。
彼らの種族--キャンベル族というらしい--は2~3年で成人し、結婚するらしい。7人の子供のうち2人を早いうちに亡くし、1人がまだ独身だという。それにしても恐るべきねずみ算である。
ちなみに玄孫とは孫の子供のことらしい。
「他の種族から比べるとあっという間の人生です。私がいなくなったとて、後に憂うこともありません。一度きりと言うならば、遠くに旅してみたいと思ったのですよ」
そうか、彼らにとって旅は、俺の思うよりずっと冒険なのだ。
「頼りなく思うかもしれません。姫を救いに行く大切な旅に、
申し訳なさそうに頭を下げた。
なんと出来たハム……お人だ。
「俺さ、今17歳。でも、ナットさんの孫よりずっとガキなんだ。迷惑かけるけどよろしくお願いします」
人生の先輩をときに敬う姿勢は必要だと思う。
自分の重ねた歳の数だけでふんぞり返るような事はせず、相手に敬意をもって接することを知っている大人には特に。
一緒に頭を下げる俺に、顔を上げてくださいとナットさんは言う。
「これからは旅のお仲間なのですから、ナットとお呼びください」
「なら、俺はマサルで。それから敬語はいらないです」
それから俺たちは、ナットさんの買い物リストを見ながら、旅に必要なものを買いそろえていった。ちなみに、代金は全部爺さん持ちで。
実験に巻き込んだ慰謝料的な意味を込め、俺がここにいる間の生活全般の出費を肩代わりしてくれるそうな。
スゲ~太っ腹。
俺たちは手ごろな幌馬車と、《テール》という牛くらいの大きさの角の生えたカピバラみたいな生き物を1頭買った。荷馬車を引くのに丁度いい生き物なのだとか。あんまり足早そうには見えないけどな。
それから携帯食料と水、毛布やテントなど買い揃えていった。
そして何より、俺がナットさんに感謝したこと。
「年頃の若者が、王族が着るような古風なデザインはお嫌でしょう?」
そう言って服屋に連れていってくれたのだ。
ピーターパンのまま町に出た俺は、まさかこれほど視線を集めるとは思ってもいなかったのだ。だってこの世界の住人のチョイスだよ。大丈夫だと思うじゃない?
俺は簡単なシャツとチョッキ、ゆったりしたフードつきのポンチョのような上着に、乗馬ズボン。膝下までの折り返しつきのブーツを買った。何とか恥ずかしくないRPGの初期装備くらいには身なりを整えることができた。
ただ、こうすると、ますます貰った剣とネックレスが目立つ。
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