第28話 咆哮

「――ッ!」


 しまった。サハラは目の前に集う閃光を見てそう後悔した。

 振り下ろされた大剣を抜け、《アルヴァ》の数倍もある《ガルガリン》の体を駆け上がった直後。

 その頭部に至ったサハラを待ち受けていたのは、今にも発射を待つ砲門だった。人で言えばちょうど口の部分に、呪光砲を巨大化させたようなそれ。紫の文様が煌めき集う。


「くそッ!」


 モニター越しに大きく映るそれを確認した瞬間、ペダルを蹴っ飛ばす。目指すは上。しかし、遅い。

 ヴィゥォォォン!

 《アルヴァ》が回避するより早く、《ガルガリン》は頭部に備えられた切札――呪光閃砲を撃ち放った。集められた白い光が高エネルギーの奔流となる。


「ぐぁッ!」


 衝撃がコックピットを揺らす。前に放り出されそうな体がシートで繋ぎ止められる。姿勢を崩し、流されそうになる《アルヴァ》。モニターに赤いアラート。サハラは歯を食いしばりながら更にペダルを踏み込む。


「……上等じゃねぇか、畜生……!」


 呪光閃砲から逃れ、サハラが《アルヴァ》の状態を確認すると、膝から下が消し飛んでいた。損傷を告げるアラートが鬱陶しい。

 やってくれたな……!

 反撃とサハラは顔を上げるが、しかしその眼前には既に《ガルガリン》の右の大剣が迫っていた。


「ちッ!」


 舌打ちと共にまたペダルを蹴る。《アルヴァ》の動きはほんの少しだけ遅くなっていたが、迫る大剣は躱せる。同時にサハラは呪光閃砲を睨むと、《アルヴァ》の掌の呪光を撃った。

 放たれた呪光は《ガルガリン》の頭部を捉えるが、『当たっただけ』だった。紫の文様は依然煌めいている。


「マジかよ……!」


 次元障もないクセに……伊達に上級の聖天機じゃねぇってか!

 憎々しく思っている間にも、《アルヴァ》に左の大剣が迫る。少しだけ下がりながら、サハラはそれを躱すしか出来ない。


『サハラ、大丈夫か!』

「膝から下持ってかれた!」


 飛んできたアランの通信。吐き捨てるように応じながら、全天周モニターを見回す。大きな損傷を告げる赤いアラート。そして下手に動けば弾幕に晒される位置。再び構えられる一対の大剣。そして正面には再びうっすらと光を宿しつつある呪光閃砲。


「このままじゃあジリ貧か……!」


 《アルヴァ》は青い尾を引くと、更に上空へ。今はあの呪光閃砲と大剣から逃れるのが先決だった。再び弾幕の中に潜る瞬間、反転。迫り来る光の弾丸を正面に捉えながら帯の外へと飛び出す。


『サハラ!』


 爆風の帯を抜けたところで、《アルヴァ》の横に二機の《アステロード》が並ぶ。


『退けサハラ! その状態での単騎突撃は無理がある、《ガルガリン》からは下がれ』

「でも《アステロード》じゃあ弾幕潜るのがやっとでしょう! 《アルヴァ》ならやれます!」


 セイゴの言にサハラが反発すると、隣のシューマが「じゃあよ」と冷静に尋ねる。


『サハラ、勝算はあるのか。戦略でもいい。何かねぇのか?』

「何か……何かか……!」


 爆風の帯の外から《ガルガリン》を睨む。垣間見える頭部。そして時折、入ってきた堕天機を落としている大剣。

 何か、もう一押し何かがあれば……!

 答えの出せないサハラを見限り、セイゴ機が《アルヴァ》の肩を掴む。不意にシートへ叩きつけられながら、サハラはセイゴへ咆えた。


「《ガルガリン》はどうするんですか!」

『じきに司令部から作戦が下りる! 今はそれを待て!』


 サハラはシート越しに後ろのテノーラン基地を見る。まだ距離はあるが、《ガルガリン》の呪光閃砲アレの射程がどれほどかは分からない。手元のパネルを拳で叩いて、目の前の巨影を睨む。サハラの目に、爆風の向こうで光る呪光閃砲が映った。


「……ってまさかッ!」


 ヴィウゥゥゥン!

 地響きのような低い《ガルガリン》の咆哮。

 次の瞬間、呪光閃砲がテノーラン基地目掛け放たれた。己の纏う爆風を穿つ白亜の奔流。天使と堕天機の一部が巻き込まれ――基地に直撃する寸前、バリアのような障壁でそれは阻まれた。障壁と呪光閃砲がぶつかった瞬間、眩い光と共にビリビリと大気が震える。


「次元障か……!」


 サハラはその障壁の輝きに見覚えがあった。《ガルガリン》と同じ上級の聖天機である《ヘルヴィム》が展開するそれ。テノーラン基地が展開したものはその次元障とよく似ていた。シューマが通信越しにごくりと息を飲む。


『さすが最前線の基地だな……!』


 しかしサハラは、同時に思い出す。以前、ルディの《デイゴーン》と共に、サハラは《ヘルヴィム》の次元障を破っていた。テノーラン基地が有する次元障は当然、その模倣品でしかないだろう。


「つまり……ッ!」


 そう保つ代物じゃないはずだ!

 サハラは《ガルガリン》へ向き直る。巨大な玉座は再び爆風を纏いながら、しかし確実に基地へと近付きつつあった。サハラはそれを認めた途端、ペダルを蹴っ飛ばした。《アルヴァ》がセイゴ機の手を振り払い、再び《ガルガリン》の方へ飛ぶ。


『サハラ!』

「俺が注意を引きます! あのまま放置はどっちにしろ良くないでしょうが!」


 後ろから飛んだセイゴの怒号に怒鳴り返すと、サハラは弾幕の中に突っ込んだ。胴体部分と玉座部分に据えられた呪光砲が火を噴く。その勢いは先程より増しているようにも感じた。

 《アルヴァ》を手足のように操りながら、しかし避けられない呪光砲をシールドで受けつつくぐり抜ける。遠くで《アステロード》が蜂の巣になるのが見えた。


「チッ!」


 舌打ちと共にペダルを踏み込み突っ込む。呪光砲をかいくぐり、《ガルガリン》の本体に近付く。そこへ待っていたと言わんばかりに振り下ろされる大剣。飛び退く《アルヴァ》。次の一撃に備えるサハラの耳に、別種のアラートが届く。


「上かッ!」


 見上げれば、上空から《アルケン》が二機迫っていた。同時に左からも大剣が猛進してくる。《アルヴァ》は《アルケン》を迎え撃つように飛び上がった。天へとかざすように手を開く。

 放たれた光弾。一機の《アルケン》はそれを躱してみせたが、やや後方にいたもう一機が直撃。二機の間が離れる。


「どけぇぇッ!」


 すれ違いざま、手にした朱槍を突き出す《アルケン》。サハラはそれを見切ると、躱した勢いそのままにその無貌を掴んだ。

 ヴィゥゥン……!

 軋むような音と共に《アルケン》の橙の文様が点滅する。サハラはそのまま呪光砲を叩き込んだ。掌で炸裂する光。撃破した《アルケン》を投げ捨て、もう一機を睨む。後ろから迫る大剣の圧を感じる。ペダルを蹴り、《アルヴァ》は一気に駆け上がった。

 ヴィゥゥン!

 《アルケン》の呪光砲を躱し、《アルヴァ》はその両翼の上へと躍り出る。サハラは足元に《アルケン》を睨んで、そのまま蹴り飛ばした。

 衝撃と共に《アルケン》が下へ。そして、そこには《アルヴァ》を追った大剣。虹色の光と共に《アルケン》が両断される。なおも迫る大剣。《アルヴァ》はすれ違うようにしてそれを躱す。

 体勢を整え、瞬時にモニターを見渡す。サハラの目は、仄かに光を宿しつつある呪光閃砲を捉えた。


「させるかよッ!」


 腰にマウントした小銃を構え、呪光閃砲を狙い撃つ。離れているが、届かない距離ではない。再び迫る大剣を横目で睨む。回避行動を取りながら、しかしサハラはトリガーを引き続ける。

 ヴィゥォォン……!

 また《ガルガリン》の文様が強く閃き、呪光閃砲が放たれようとする。しかしその瞬間、《アルヴァ》の弾丸が食らいついた。光の一部が暴発し、《ガルガリン》の頭部がぐらりと仰け反る。同時に放たれた呪光閃砲はテノーラン基地を逸れ、雲海を穿つに終わった。

 点滅する《ガルガリン》の文様に、サハラはにやりと笑う。


「やってやったぜ……!」


 しかし一回止めたに過ぎない。《ガルガリン》にいくらかダメージを与えたとはいえ、反撃にはならない。サハラが再び考えを巡らせようとした、その時だった。


『さすが《アルヴァスレイド》……上等だよ、サハラ』


 耳に届いた通信は、アランでもセイゴでもシューマでもない。サハラは思わず後方を確認した。弾幕の隙間から、テノーラン基地が垣間見える。基地からは、青い機影が三つ飛び出していた。


「《デイゴーン》……!」


 それは、海獣を模した新型の堕天機。出撃した三機の《デイゴーン》は準備運動と言わんばかりに周囲の下級天使を蹴散らしていく。サハラは合流するため、一旦弾幕の外側へと飛び出した。

 間もない内にセイゴ隊、そしてルディ隊が集結した。二機の《アステロード》、三機の《デイゴーン》、そして《アルヴァスレイド》が迫る巨影を前に並び立つ。


『なにそれ。やられてるじゃん』

『タオ……!』


 膝から下を失った《アルヴァ》を見て、タオがそう吐き捨てる。ハウがたしなめる中、ルディは軽く笑った。


『ま、アレと初戦、しかもほとんど一対一ならよくやった方でしょ』

「言ってくれるじゃねぇの……」


 やられたのは事実で、しかし好き放題に言うルディ隊にサハラは苦々しく呟く。シューマは『さすが新型パイロットか?』と皮肉のように口を開く。


『調整中って聞いてたが、大丈夫なのか?』

『終わらせた……のさ』


 その疑問に答えたのは、ルディ隊の誰でもない男の声。格納庫からそのまま通信を飛ばしているのだろうか、多少荒いがそれは長閑ユードだった。


『春雷博士と残夜さんの力も借りたから……ね。三機とも万全……だよ』

『そういう訳だ、安心して戦え!』

『本来はもう少しかかるはずだったんだがね……いやはや、さすが《アルヴァ》を誕生から扱ったメカニックだ』


 相変わらず淡白だがどこかもどかしい話し方。しかし、その声と、裏で聞こえる二つの老いた声がここに並ぶ《デイゴーン》の雄姿を裏付けていた。やはり腕は本物らしい。

 その会話を聞いて、セイゴが改めてサハラへ言い聞かせる。


『ルディたちも出た、お前は退いて――』

『いや、サハラと《アルヴァ》には戦ってもらうよ』


 ルディがセイゴの言を遮る。


『これからアタシたちで《ガルガリン》を落とす。《アルヴァスレイド》にはまだ仕事がある』

『ルディ!』


 話を進めるルディに、セイゴが声を荒げる。しかし、それをまた別の声が優しく制止した。


『大丈夫です、隊長。……サハラが危なくなったら私が必ず止めてみせます』

『マオ……』


 その言葉に強いものを感じて、セイゴは思案する。しかし早々に諦めると、切り替えて目の前の《ガルガリン》を睨んだ。


『ルディ、サハラを頼めるか』

『いいや、頼まれはしない。サハラ自身がどうするか、だ』


 首を振るルディ。サハラは間髪入れず、その声に応じる。


「俺は大丈夫です。行きます!」

『じゃあ決まりだ』


 ルディがそう告げると同時に《デイゴーン》の瞳が煌めいた。


『アタシとタオ、ハウ、サハラで《ガルガリン》を攻撃する。セイゴとシューマはその援護を!』

『わかった。……いくぞシューマ!』


 二人の隊長が呼応して、六つの影が飛翔する。サハラは弾幕に猛然と突っ込む三機の《デイゴーン》の後を追った。


『ん……めんどう……』

『でもタオたちにとってはこの程度』


 ハウとタオの言う通りだった。《デイゴーン》たちは先程までの《アルヴァ》と同じく、難なく弾幕をかいくぐっていく。光弾に晒されて撃ち落とされる《エンジェ》や《アステロード》を横目に、四機は《ガルガリン》の懐へ至る。目の前には待っていたように数機の《アルケン》。そして上からは早速大剣が一振り迫っていた。


『《アルケン》はタオとハウ! サハラはアタシと!』


 ルディの素早い指示が飛ぶ。弾かれたようにタオ機とハウ機が飛び出し、《アルケン》と交戦。同時に飛び上がったルディ機をサハラは追う。

 チラリと下を見ればハウ機とタオ機は大剣を躱しつつも《アルケン》を次々に屠っていた。隙のない、一体となった連携攻撃。攻撃を仕掛けた天使から次々に散っていく。

 そして前。ルディ機が飛び上がって目指していたのは肩のようだった。


『まずはこの大剣をどうにかする!』


 再び迫るもう片方の大剣を躱しながら、ルディがそう言い放った。


「どうにかって、どうすんだよ!」

『こうやんの!』


 ルディはそう言い放つと、つい直前に躱した大剣の軌跡を追い駆けた。サハラも見様見真似でそれを追う。振り下ろされる時もそう感じたが、剣の動きはけして遅くない。しかし、追いつけない速度ではなかった。


『こいつをォォッ!』


 剣に《デイゴーン》が追い付く。ルディはそのまま、剣を握っている手首に組み付いた。次の瞬間、《デイゴーン》のブースターが一気に燃え上がり、腕をそのまま猛然と突き動かす。


『このままぶっ飛ばす!』

「力技か……上等だッ!」


 サハラはそう吐き捨て、ペダルを蹴り飛ばした。《アルヴァ》もルディ機の隣に並び、振り抜いた勢いと共に《ガルガリン》の腕を突き動かす。ブースターが轟音で燃え上がり、アンゲロスが唸るのを感じる。


「でも二機で足りんのかよッ!?」

『足りないなら二機以上の力で押すまで! 嘗めないで、アタシはカトスキアのエース――星影ルディ!』

「上等だぁぁぁッ!」


 なら《アルヴァスレイド》だって――俺だって!

 咆哮と共に、サハラは両のトリガーを引いた。《アルヴァ》の掌で呪光砲が閃き、連続で爆裂する。機体の損傷を告げるアラートが増えた気がしたが、サハラは構わず撃ち続ける。

 ヴィゥゥゥゥゥンン……!

 何かがゆっくり軋むような音ともに《ガルガリン》の文様が光る。見れば、《ガルガリン》自体も腕に引っ張られるように動き始めていた。


『おまたせ……』

『このまま、いくよ』


 同じタイミングで、《アルケン》を掃討してきたハウとタオが合流し、四機が腕を突き動かす。軋みはより大きくなり、《ガルガリン》の腕の文様も点滅し始める。この調子なら……!


『もう一方の大剣、来ます!』


 仕上げ、というタイミングで入ったマオからの通信。見れば、一か所に集まった堕天機たちを腕ごと葬らんと迫る大剣。しかし、ここで散開すれば腕は戻る。


『ここは一旦――』

「いや、俺が行くッ!」


 手を緩めたルディの言葉を遮って、《アルヴァ》が腕を蹴って飛び出した。真っ直ぐに突き進んでくる大剣を正面に捉えながら向かい撃つように飛ぶ。


『ちょっと、お前……!』

『サハラ!』

「そっちは任せた!」


 タオとマオから声が飛ぶ。サハラはそれを振り払うと、大剣をすれ違いざまに躱した。サハラは逃したものの、残る三機を阻止せんが為に進む大剣。《アルヴァ》の緑眼が閃く。


「邪魔すんじゃねぇぇッ!」


 雄叫びを上げると、サハラは操縦桿を突き出してブースターを全開にする。《アルヴァ》は自分の隣を通り過ぎようとしていた大剣を睨むと、その腹を突き動かした。

 激しい振動がコックピットのサハラを襲う。暴れる操縦桿。モニター全面に映る大剣を睨みながらそれを必死に抑える。サハラの金眼が煌めく。


「《アルヴァ》のパワーならぁぁぁぁッ!」


 一機ではぶっ飛ばせずとも、軌道くらいは変えてみせる!

 遠くで音叉の響くような耳鳴りがサハラに届く。妙に頭が冴えるような感覚。音の無い興奮の渦がサハラを飲み込もうとする。《アルヴァ》の掌の損傷が激しい。鳴り響くアラートの中――ふと。

 ふと、サハラの頭の中で何かが強く閃いた。


「――ッ!」


 耳鳴りが強くなる。音の無い興奮に腕を突き動かされ、サハラはトリガーを引いていた。同時に、細かく操縦桿を動かす。

 掌の呪光砲が閃いた。しかしそれは光弾を発射せず、小さな膜を形成。まるで障壁のようなものを展開させた。

 サハラの金眼が強く閃く。


「――らぁぁぁぁッ!」


 その瞬間、《ガルガリン》の大剣が弾き飛ばされた。握ったままの《ガルガリン》はぐらり、と体勢を崩す。そしてそれは、同時に『最後の一押し』と化した。

 何かが砕け散るような轟音。見れば、《デイゴーン》三機がその大剣を腕ごと引きちぎっていた。まるで下級の天使を撃破したような爆裂と共に、《ガルガリン》が唸りを上げる。

 ヴィオオオオン!


『よし……つぎは……』

ままだッ!」


 《デイゴーン》たちが腕を投げ捨て、もう片腕を狙おうとした瞬間、サハラはそれを制止した。サハラの頭の中に、一つの道筋が浮かぶ。


のまま突き動かせッ!」


 サハラが言い放つと共に、《アルヴァ》が赤い流星と化す。即座に千切れ飛んだ腕に至った《アルヴァ》はその柄を抱くと轟音と共にその体を捻る。


『サハラ……まさか!』

のままコイツをぉぉぉぉぉおおおッ!」


 マオの『まさか』の通りだった。《アルヴァ》は全身を軋ませながら、《ガルガリン》の大剣を振り回し始める。ブースターが爆ぜんばかりの咆哮を上げる。


『無茶だ!』


 荒い通信。デオンの声だった。


『いくら異天二号機……《アルヴァスレイド》が仮に《セラフィーネ》だとしても、まだ完全に覚醒しているわけでは!』

「うるせぇぇぇぇッ!!」


 鬼のような形相でサハラはデオンの言を突っぱねる。サハラは耳鳴りと興奮の中で、何故かこれを成せるという確信があった。


「今の俺なら……今の俺と《アルヴァスレイド》なら!」


 ズズズ、と《アルヴァ》の全身が薄く金の光を纏う。サハラは己の肩が軋むように感じながら、しかしそのまま剣を振りました。


『仕方のないヤツだなお前はァァッ!』


 応じるようにルディが雄叫びをあげ、《デイゴーン》が再び猛進する。徐々に、確実に《ガルガリン》の大剣が向きを変える。このまま振り抜けば、《ガルガリン》の首を捉える。

 ヴィゥゥゥン……!


クソがッ!」


 サハラの睨む先、《ガルガリン》。文様の光を追って見れば、その頭部はテノーラン基地ではなく完全にこちらを向いていた。呪光閃砲が光を宿し始める。《デイゴーン》が退けたところで、振り抜くことに全力を出している《アルヴァ》は大剣諸共消し飛ぶだろう。


『チッ! ……下がるよ、ハウ!』

『うん……!』


 大剣を加速させていた《デイゴーン》三機はその射線から離れる。腕を伴った大剣には《アルヴァスレイド》だけが残っていた。


『サハラも一旦退けっ! 手を離せっ!』


 アランが無茶を言うが、しかしサハラは自分の腕がいう事を聞かないことに気付く。いや、そもそも今離したところでこの状態の《アルヴァ》では避けられまい。

 《ガルガリン》の呪光閃砲がサハラを睨む。光が収束する――しかし、その寸前で《ガルガリン》の呪光閃砲は再び暴発した。上からの衝撃によって《ガルガリン》の頭部は下を向き、《アルヴァ》の足元数十mを呪光閃砲が穿つ。


『俺らの仕事はお前たちの援護、なんだろう? 外すかよ!』


 《ガルガリン》の上空、そこには見覚えのある《アステロード》が二機飛んでいた。肩にそれぞれ『Ⅰ』『Ⅱ』とナンバリングされた、セイゴ隊の《アステロード》。


『今だサハラッ!』

「――ッ!」


 サハラの思考が一気に晴れた。

 耳鳴りが鼓膜を覆いつくした一瞬、不思議なほど身が軽くなる感覚。全てが止まったように見える中、意識だけが覚醒している。狙いは、一点。


「――喰らえぇぇぇッ!」


 咆哮。刹那、《アルヴァ》は翼のようなものを纏う。一気に振り抜かれる大剣。その刃は《ガルガリン》の背の翼を引き裂き、そのまま首を絶ち斬った。

 紫の文様が点滅し、そのまま地に落ちる《ガルガリン》。サハラは《アルヴァ》のコックピットからそれを見下ろしていた。


「――……!」


 完全に力を使い果たしたのか、手の指は一本も動かなかった。足は動くから帰投は出来るか……などと呆然と考えていると、《ガルガリン》の紫の文様、その点滅が早くなっていることに気付く。

 そして同時に、《アルヴァ》の横にルディの《デイゴーン》が飛び出して来ていた。


『世話が焼けるな、全く!』


 軽く笑うようにルディは吐き捨てると、《デイゴーン》が《アルヴァ》を掴み、一気に離脱した。

 次の瞬間、二機の後方で閃光と共に、雲を晴らすほどの爆発が起こる。半ば吹き飛ばされるように、《アルヴァ》は《デイゴーン》と共に飛んでいた。




「第Ⅲ位聖天機、《ガルガリン》の撃破を確認!」


 司令部では歓声がにわかに沸き起こっていた。

 その中心で、東雲アシェラもまた、小さくガッツポーズをつくる。


「さすが私の息子っ!」


 しかし、その胸中は穏やかではなかった。

 纏ったように見えた金色の光。刹那に見えた《アルヴァスレイド》の翼。一瞬だけ、アシェラは思案する。

 しかし、それは今真っ先に考えるべきことではない。アシェラは早々に思考を整理すると、終わりつつある戦いの観測を再開した。

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