第2話 光舞う戦線

「まずは、一体ッ!」

 天使を撃破した少年は、まずはそう呟いた。

 すぐさま、全天周モニターで周囲を確認する。

 周りでは少年の駆る堕天機と同じ機体が、天使との戦闘を開始していた。

 黒い体躯に、細長い手足。猛禽類のような意匠の頭部に緑色のツインアイ。堕天機の中でも《アステロード》と呼ばれる機体である。

 少年は戦場を確認すると、次の天使へと目を向ける。

 少し離れた、上空。

 再びブースターを燃やすと、少年は剣から《アステロード》の持つもう一つの武器、アサルトライフルへ持ち替える。

 同時に、天使もこちらに気付く。

 文様を不気味に光らせると、天使は掌をこちらに向けた。「呪光砲」……天使の射撃武装だ。

 突っ込んでくる《アステロード》へ、天使は呪光砲を放つ。

 しかし少年は《アステロード》の腕部に装備されたシールドで受けると、アサルトライフルを叩き込んだ。

「墜ちろッ!」

 弾丸が天使の頭部をとらえる。続けざまに叩き込んだ銃弾が再び天使をとらえ、輝きと共に爆散する。

「これで二機!」

『サハラ、突っ込み過ぎだぞ!』

 先程の通信と同じ男の声が飛ぶ。

 サハラと呼ばれた少年――東雲シノノメ サハラは男の声が届いていないように、再び次の敵を探す。

 するとその目は新たな敵を捉えていた。

 足のない黒い文様の《エンジェ》と呼ばれる天使とは違う、完全な人型をした天使。

 橙色の文様を持つその天使は《アルケン》と呼ばれていた。《エンジェ》の上位種である。

『サハラ!』

「《アルケン》をやりますッ!」

 サハラは呼びかけにそう言い返すと、目標へ飛ぶ。


 一方。

 肩に『Ⅰ』と描かれた《アステロード》のコックピットで、サハラに言い返された男が顔をしかめていた。

「全く……周りも考えずに……!」

 無精ひげが特徴的な中年の男――雪暗ユキグレ セイゴはモニター越しにサハラ機を睨む。

『こちら管制……サハラ完全に熱くなってますね……』

 セイゴのコックピットへサハラとは別の声が届く。

「いつも突っ込み過ぎだと言っているのにな」

『あの馬鹿は……』

「アラン、サハラの動きから目を離すなよ」

『はーい』

 そこでアラン――夕靄ユウモヤ アランとの通信を切ると、セイゴはサハラも所属する己の隊「セイゴ隊」の他のメンバーへ指示を出す。

「マオ、サハラの援護を」

『了解です!』

 少女の声が答える。すると《エンジェ》を落としていた一機の《アステロード》がサハラ機の後ろへ回った。


 《アルケン》を見つけたサハラは、《エンジェ》の中に突っ込んでいた。邪魔な《エンジェ》をライフルで撃ちつつ、《アルケン》だけを目指す。

 すると《アルケン》も単騎突っ込んでくるサハラの《アステロード》に気付いたようで、呪光砲を撃つ。

「上等だッ!」

 サハラはまた熱くなると、シールドでそれを受けながらライフルを放った。しかし《アルケン》の左足を吹き飛ばしたに過ぎず、落とすことは出来ない。

「畜生……!」

 サハラは唸り声をあげた。しかしその瞬間、予想外の衝撃に機体が揺れる。

「な、なんだッ!?」

 見ると、背後から《エンジェ》の呪光砲を受けていた。サハラは踵を返すと、その《エンジェ》に反撃を叩き込む。

《エンジェ》は落としたサハラが《アルケン》へ向き直ると、《アルケン》は目前に迫っていた。

「しまったッ……!」

 目の前で呪光砲を構える《アルケン》。しかし直後、その《アルケン》を横から何者かが撃ち、《アルケン》は咄嗟に下がった。

「危ねぇ……!」

 助かった、と思いつつその方向を確認すると、ライフルを撃ったのはマオと呼ばれた少女のの《アステロード》だった。

『危ない、はこっちの台詞!』

「助かったぜマオ!」

『んもうっ!』

 全く反省の色が見えないサハラに、マオもまた頭を抱える。

 そしてサハラはまた、《アルケン》に目を戻した。すると《アルケン》は横やりを入れたマオ機へ注意を向けていた。

「ならッ!」

 好機。そう確信したサハラは《アルケン》へ一機に近付く。予想外の行動だったのか、槍を構えるのが一瞬遅れる《アルケン》。

「貰ったァッ!」

 サハラは《アステロード》のライフルを実体剣に持ち変えると、そのままの勢いで横薙ぎに切り裂いた。《アルケン》は胴体を両断され、直後に爆散する。

 サハラは満足げに周囲を確認する。《アルケン》はどうやら今の一機が最後だったらしく、残りは数機の《エンジェ》。どうやらもう戦闘は終了しつつあるらしかった。

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