第3話 孤立している彼女

 次に体育の授業を控えたとある休み時間。


 俺の学年は女子は更衣室で、残った男子は教室で着換えを行う。


 普段すぐに教室からいなくなる俺は、今回女子がはけるまでの時間を使って、ある光景をチラ見で観察してみた。


 即座に教室から出ていく夏目那月と、それを眺めている黒瀬グループである。


 正直、夏目那月がなぜ孤立したのか若干気になっていた。


 まだ彼女とは話して間もないけど、人を不快にさせる要素があるとは何となく思えなかったからだ。


 眺めていて目についたのは、リーダー格の黒瀬 蓮と、夏目那月と一番仲が良かった星野 明莉(ほしの あかり)。


 二人とも人目を惹くビジュアルを備えているけど、俺が気になったのはそこじゃない。


 何度も確認する中で、それは確信に変わる。

 やっぱり、俺の気のせいじゃなかった。


 まずこの二人、あんまり喋ってない。


 常に間に三人くらい友達を挟んで話してる感じである。


 仲は悪そうに見えないし、皆で共通の話題を話してるけれど、どこかお互いに直接話すのを避けていて、気まずそうな感じが見受けられる。


 夏目那月がまだグループに属してる時は、彼女を含めた三人でもっと仲良さそうにしてた気がするんだけど。


 次に、二人の夏目那月を見る時の様子の違いである。


 常にコミュ力全開で明るい二人だけど、黒瀬蓮は申し訳なさそうに、星野明莉は若干怒り? が混じった表情で夏目那月を見ている気がした。


 それらの様子を見て、俺が出した結論。


 それは、『分からない』だった。


 そもそもコミュ障ぼっちの俺が、他人を観察した所で何も分かる訳がなかった。


 俺は彼らに見てるのがバレる前に、着替えて足早に体育館へと向かった。


◇◇◇


 陰キャぼっちが体育が苦手な理由。


 その定番あるあるとして挙げられる展開の一つに『準備運動のために二人一組でペアになれ』があると思う。


 俺の学校の体育教師達は、毎回これを支持してくる。

 そして俺は毎回誰と組むのか悩むのである。


 偶数だから余ることはないけれど、最後に余りもの同士で組まされて憐れまれるのが嫌な俺は、普段は話しかけやすそうな男子を選んで一緒に組むんだけど。


 いざペア決めの段階になった時に、この日一番に俺の目を引いたのは、一人の女子の存在だった。


 言わずもがな、夏目那月である。


 彼女は他の女子とペアを組むことなく、一人ぽつんと立っていた。


 というより、周囲の人が彼女を避けているというか。


 まあ、一部の人の気持ちは分からなくもない。


 まず男子。


 学校一有名と言っても過言じゃない美少女に、自分から話しかけて行く度胸なんてないだろう。


 そして、彼女と余り接点を持たない女子。


 大して親睦がなくても俺みたいに組むケースはあるけど、如何せん彼女は見た目が整いすぎている。


 顔の造形は言わずもがな、フィットした半袖短パンの体操服からモデルのような豊満なボディラインが露わになっている。


 俺が女子なら、周囲から比較されたくなくて組めない。


 消去法で唯一組めるのは、彼女と仲が良くてビジュアルも問題ない黒瀬グループ。

 特に同じ女子で仲が良いはずの星野明莉なんだけど、彼女は夏目那月を見ながらも既に別の女子と組んでいた。


 他の黒瀬グループの男子達も彼女を気にしながら、声を掛けようとはしない。


 普段からあまり感情に抑揚が見られない夏目那月だけど、彼女は今何を考えているのだろう。


 気のせいかその背中が少し寂しそうに俺には見えて。


 その時、


「な、夏目さん。良かったら組みませんか?」


 周囲の注目の中、一人の生徒が彼女に声をかけた。


「……田所君?」


 俺である。

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