第55話 プール&遊園地デート 3

 遊園地を楽しんだ後は、最後に二人で、温泉に入る事に。


 アクアパークには温泉施設も併設されていて、遊園地で楽しんだ後にリラックス出来る場所としても有名である。


 とはいっても、今日は日帰りなので、これ以上長居しないように、軽く入って帰ろうとは思うのだけれど。


 夏目さんと一旦分かれて入った温泉は大浴場になっていて、ゆっくりと今日一日の疲れを取ることが出来た。


 入場する時に提供された浴衣に着替えて、ソファでくつろぎながら夏目さんを待っていると、


「お待たせ」


 髪を後ろにまとめている浴衣姿の夏目さんがいた。


 その色白の肌が柔らかく、艶やかなうなじが露わになって、思わず目を奪われてしまう。


 帰る時間その時まで思い出をいっぱい刻もうと、施設内を見て回る。


 その中で、ゲームセンターが目に留まった。


 中に入ってみると、クレーンゲームやレトロなボードゲームが立ち並んでいる。


「田所君は、こういうのが好きなの?」


 俺の興奮した様子が表情に出ていたらしい。


「え、ええ」


 一時はクレーンゲームで景品を集めたりしていたこともあった。


 興味本位で、アニメのフィギュアが入った箱にお金を入れてみた。


 縦と横のボタンを順番に押してアームを動かし、見事に箱の上にアームを止めたものの、


 摘まむ力が弱かったのか、箱を持ち上げることはできなかった。


「面白そう」


 隣で眺めていた夏目さんがそう呟いた。


「夏目さんは、こういうのはやったりするんですか?」

「明莉がやってるのを見ただけかな」

「なら、ちょっとやってみませんか? あれとか」


 俺は、奥のスペースを指さした。


 途中で気づいたけれど、奥のスペースにはふわもこのクレーンゲームもあった。


 近づいてショーケースの中を覗いてみると、ミルフィとクロミーの壁時計が置かれていた。


 夏目さんがお金を入れて、実際にアームを動かしてみる事に。


 俺が隣で説明する。


「丸一のボタンで縦、丸二で横にアームを動かせるんですよ」

「そうなんだね」


 そう言って彼女に教えつつ、こういうのは、実際には取れなくても、もしかしたらとれるかもしれないという高揚感を楽しむゲームだとも思った。


 そんな事を考えていると、


「取れた」

「え、凄い!」


 夏目さんが、見事に景品をゲットしてしまった。


「ありがとう、田所君」


 嬉しそうにそれを抱きしめる彼女を見て、俺は思わず綻んでしまう。


 その後は施設内の売店や漫画コーナーなどを二人して回って満喫する。


 その途中で、彼女の携帯が鳴った。


 電話に出る夏目さん。


「うん。……うん。ごめんね」


 僅かに聞こえてくる女性の声、夏目さんの母親かも知れないと思った。


 彼女は電話を終えると、俺に一言。


「そろそろ、帰らないと」

「そ、そうですね」


 時刻は既に二十時前になっていた。


 予め遅くても大丈夫な事は夏目さんから聞いていたけれど、流石に親御さんが心配してしまったようだ。


 二人で身支度を整えて、電車に乗って帰ることに。


「ごめんなさい。夏目さん」

「……どうしたの?」

「いや、もっと早く切り上げればよかったかなって」


 彼女ともっと一緒にいたい。


 そんな自分の欲求だけが先行してしまった。


「田所君は悪くないよ。私がもっと一緒にいたいって思ったから」


 彼女の気持ちが俺と一緒で嬉しい反面、今は浮世離れしないように、自制しなければいけないとも思った。


 そうして再度一時間半ほど、電車で揺られながら、見慣れた今日の集合場所の駅へと戻ってきた。


 今日はここでお別れである。


「今日は、凄く楽しかったです」

「私も、楽しかったよ」


 居心地のいい静寂が俺達を包む中、夏目さんが口を開く。


「また、すぐ、田所君に会いたい」


 その彼女の発言に、俺の心臓が高鳴る。


「お、俺もです」

「……ん」


 夏目さんが、俺に抱き着いてきた。


 次に会うまでに、お互いの存在をその体に充電するように、俺達は数分間そうしていた。


 そして、


「またね」

「ええ、また」


 俺は夏目さんを改札口で見送る。


「な、夏目さん!」


 最後に俺は彼女に言い忘れていたことを思い出して、夏目さんを呼び止める。


 振り返る彼女に俺は言う。


「大好きです」

「……うん。私も、大好き」


 そう言って改札を隔てて俺達は数秒間見つめ合って、その日は終了したのだった。


 その日、家に帰った俺は、彼女が無事に家に帰ることが出来たかどうか、夏目さんにメッセージを送ってみた。


 それでも、その日、夏目さんから連絡の返事が来ることはなかった。



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