第54話 プール&遊園地デート 2
プールエリアで長い事堪能したことで、時間が夕方に差し迫っていた事と、俺も夏目さんもどちらかというとインドア系で体力をすり減らしていたので、カフェテリアで休憩した後、次の遊園地の方はゆったり目に過ごすことにした。
少し夕暮れ時に差し迫り、園内を二人で見て回る中、
「……可愛い」
「メリーゴーラウンドですね」
可愛い装飾の施されたメリーゴーラウンドが目に入ってきた。
先客を乗せてゆっくりと回転する台座の上には、純白の馬や色鮮やかな馬車が並び、どれも夢の世界から飛び出してきたかのように美しかった。
メリーゴーラウンドをじっと眺める彼女を見て、俺は最初、凄く装飾が気に入ってるのだろうと思っていたけれど。
夏目さんが俺に尋ねてくる。
「田所君は、メリーゴーラウンドに乗った事ある?」
「え? あ、ありますよ」
最後に乗ったのは、いつだっただろうか。
確か俺が小学三年生の時に、家族四人で最寄りの遊園地で乗ったのが最後かもしれない。
俺がそれを話すと、彼女は「そうなんだね」とただ呟いた。
「夏目さんが最後に乗ったのは、いつですか?」
「ないよ」
「え?」
「多分、乗った事ない。明莉と遊園地に来たことはあるけど、その時は絶叫系がメインだったし」
そんな夏目さんの発言を聞いて、ちょっと気になっていた事を尋ねてみる。
「夏目さんって、家族とかとは、最後にいつ遊園地に来たんですか?」
偶然かも知れないけれど、いつも彼女が自身の経験を語るときは、星野さんやその他の友人の存在を話していた。
あまり、俺みたいにぼっちじゃなかったから、家族の話を持ち出さないのかも知れないけれど。
俺の問いに、夏目さんが応える。
「来た事、ないかも」
「そ、そうなんですね」
驚きはあったけれど、何となく、正直、そんな感じもした。
彼女の話から、家族の話なんて断片的にしか聞いてないから、本当の所は何も分かってないのだけれど、夏目さんが家族と遊園地に来ている姿が、想像できなかった。
とはいえ、そういう家柄なのかも知れないし、変に詮索するのもおかしいと思ったので、この話はここで打ち切ることにした。
「一緒に乗ってみましょうよ!」
「……え?」
乗った事がないのなら、乗ればいい。
知らない事があるなら、これから知っていけばいい。
ただそれだけなのだ。
スタッフさんにチケットを見せて、俺と夏目さんはメリーゴーラウンドに入場する。
「夏目さんは何に乗ります?」
「どうしよう。田所君は何に乗るの?」
「え、えっと。う、馬ですかね」
「じゃあ、私も馬にする」
そうして隣り合わせになっている白馬の乗り物に二人して座り、鐘の音が響き渡ると、音楽に合わせてメリーゴーランドが回転しだした。
上下に揺れる馬達が、まるで駆けているように見える中、
「綺麗」
煌びやかな光の中で、そう呟く夏目さんの様子を見て、彼女の中で一つでも多く幸せな思い出が残って欲しいと、そう思った。
◇◇◇
次第に空が薄暗くなってきた所で、最後に二人で観覧車に乗ることにした。
向かいに台座がある中で、それでも俺達は二人で隣り合って座る。
静かに揺れるゴンドラの中、夏目さんとの距離だけを意識してしまう。
俺は隣にいる彼女に尋ねる。
「き、今日は、どうでした?」
「……え?」
「た、楽しかったかなって」
正直気持ち悪い事を聞いているかもしれない。
こういうのは、堂々としていた方が良いのかも。
夏目さんが彼女になってからの、初めてのデートで、若干意気込んでた事もあって、上手くまわれてたか、彼女に楽しんで貰えたか、思わず不安になってしまった。
俺がそんな事を考えていると、
「凄く楽しかったよ」
「……え?」
彼女が俺の肩に寄りかかってきた。
「私は、田所君とこうしているだけで、凄く幸せだから」
そう言って、俺の体に額をこすりつけてくる夏目さん。
「よ、良かったです」
俺は緊張を誤魔化すように、窓の外から見える夜景を眺める。
「き、綺麗ですね」
俺はそう言って、彼女に夜景を促そうとするけれど、夏目さんは目を伏せてみようとはしなかった。
彼女は、別の言葉を口にした。
「ねえ、田所君」
「な、何ですか?」
「私達、付き合ってるよね」
「え、ええ」
夏目さんの質問の意図が分からずに俺が不安になっていると、彼女が潤んだ瞳で見つめてきた。
「好き?」
「え?」
「私の事」
「も、もちろん。す、好きですよ」
この言葉を彼女に伝えて、俺達は付き合ったけれど、いまだに恥ずかしくて、口にするのに抵抗がある。
でもそれはつまり、
「もっと言って」
「……え?」
「好きって」
付き合って以降は、彼女に伝えていない事を意味していた。
もっと彼女は言葉で伝えて欲しいのかもしれない。
そう思ってからは、はっきりと告げることにした。
「好きです」
「……」
「夏目さんの事が」
「……うん」
夏目さんが俺の首元に腕を回して抱き着いてくる。
「私も、好き、田所君が大好き」
次第にお互いの体の密着箇所が増えていく。
「ねえ、もっと言って」
「……好きです」
「もっと」
「好き」
「……」
頬を赤く染めた夏目さんの顔が近づいてきて、俺達は静かにキスをした。
唇を離して、再度夏目さんが言葉を紡ぐ。
「もっと」
そんなやり取りをする中で、俺も夏目さんの言葉に共感していた。
場所なんて結局、どこだって構わないのかもしれない。
一番大事なのは、誰と過ごすか、その時間をどう共有するかだと思った。
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