第44話 違和感
夏目さんと星野さんが和解してから七月に入り、梅雨の時期が訪れていた。
これが過ぎれば全国的に猛暑が続き、いよいよ学生にとって最高の夏休みが間近に迫ってくる。
ちなみに二人の仲はといえば、学校内でも徐々に一緒に過ごす時間が増えてきて、最近では、黒瀬グループにも混ざり始めている様子である。
ただ、黒瀬連を含めた恋愛事情については俺は良く分かっていない。
正直、上手くグループが機能しているか心配だったけれど、外から見ている分には問題なさそうだった。
陽キャは気持ちの切り替えも早いのかも知れない。
そんな事を考えていた昼休み。
いつもの階段の踊り場で食事を済ませると、
「ねえ、田所君」
「な、何ですか?」
「もっと、そっちに行っても良い?」
隣に座っていた夏目さんが俺に寄り添ってきた。
彼女は俺に密着すると、肩に頭を軽く乗せ、白くて細い指先を俺の手にそっと重ねてくる。
俺が緊張で固まっていると、
「やっぱり、凄く落ち着く」
彼女は俺の耳元でそう囁くと、何度も俺の手を擦って頬を赤らめながら、潤んだ瞳を軽く閉じた。
その柔らかな表情からは、どこか艶やかな色気が漂っている。
残りの休み時間を噛み締めるように、二人だけの静寂な時間を堪能する。
互いの距離が近づく度に、俺達の関係はゆっくりと熱を宿していく。
『ねえ、今の事が終わったら、話したいことがあるの』
『お、俺もです』
『うん』
星野さんへのクッキーを作る最中、俺達はそう話し合った。
けれど、まだその肝心の内容については、お互いに触れられてはいない。
俺が触れない理由の一つは、夏目さんの人間関係がまだ不安定だと言う事だ。
星野さんや黒瀬グループとの関係の修復で大変な時期に、余計な負担を掛けたくなかった。
そしてもう一つは、胸の中に漂う違和感だった。
最近の夏目さんの様子を目で追っていて、言葉に出来ない微妙な変化を感じ取っていた。
だけど現状何も問題ないように見えるし、そのあいまいさを言葉にするのがどうにも難しかった。
最近の日々の様子は、とても順調に見えるのだ。
それで終わりで良いはずなのだけれど。
どこか俺の心がスッキリとしない。
そして、その違和感が最も鮮明に現れたのは、国語の授業でのグループワークの時だった。
ランダムに決められたグループ毎に読んだ作品を分析して、数回挟んだ授業の最後にその分析結果を発表するという課題が出された。
俺は夏目さんと同じグループになる事で、より間近で彼女の様子を観察することが出来たのだけれど。
その姿は、俺と二人きりでいる時の彼女ではなく、
「あ! 田所君じゃん!」
「よろしくな! えっと、田所君」
星野さんや黒瀬連と一緒にいる時の夏目さんだった。
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