第39話 星野明莉 2

 俺の疑問に答えるように、星野さんは言葉を続ける。


「なっつんとギクシャクして、関係の修復を考えてる内にあの子がグループから抜けちゃってさ。最初は何が起こったのか分からなかったの」

「……」

「私に怒ったのか、愛想を尽かしたのか、色々考えちゃってさ」


 そう話す彼女の笑顔には、何処か陰りが見えた。


「それでね、時間が経ってようやく分かったの。どれだけあの子が、これまで私に気を遣ってくれてたか。私がそれに甘えて、どれほど傷つく言葉をあの子に投げかけたのか」


 顔に貼り付けた彼女の仮面が、徐々にはがされていく。

 話が進むごとに、その笑顔は弱まっていった。


「取り返しのつかない事をしたって本気で後悔して、なっつんに謝ろうとした時に、思ったの。私のしようとしてる事は、凄く『軽いな』って」

「……軽い?」

「なんて言うんだろうね。仮になっつんが許してくれても、根本が解決していないっていうのかな。振り返ってみると、私って幼い頃からこんな事ばかりする人間だったからさ。きっとまた同じことをするんじゃないかって」


 星野さんの言いたい事、その輪郭が次第に浮かび上がってくる。


「そしたらね、あの子とどう接したら良いのか、分からなくなっちゃった」


 最後に真顔でそう呟いた彼女の様子を見て、俺は理解した。


 つまり彼女はこう言いたいのだ。


 夏目さんと接する事で、また再び彼女を傷つけてしまう事を恐れていると。


 人間の本質は変わらない。


 陽気で明るく周囲と溶け込める長所も、傷ついた時に感情的になってしまう短所も、全て星野さんが元から持っている個性で、同時に彼女の変わらなかった人間性でもある。


 夏目さんで言うと、相手への過度な気遣いや思いやりがそれに当たるのかも知れない。


 話せば二人は仲直り出来るだろう。


 でもそれは一時の表面上の話で、二人の根っこの部分が変わらなければ、その先にはきっと同じ結末が待っている。


 「私はね、都合の良い謝罪を並べてなっつんと関係を再開して、また彼女を傷つけたくないんだよ。言ったでしょ? 私は酷い人間だってさ」

「……」


 俺は言葉に詰まってしまった。


 ただ仲直りすれば良いという話ではなくなってしまったのも理由だけれど。


 想像以上に星野さんも、自分を追い込んでしまっていた事に俺は戸惑っていた。


 これ以上俺は、彼女に何を伝えられるだろう。


 いや、きっと俺の口から何かを話した所で、もとから彼女には届かないのかもしれない。


「あ! そろそろ戻らないとだよ、田所君! 授業始まっちゃうよ!」

「……え? ええ」


 教室の時計を確認した彼女の慌てた一言で、俺達の話し合いは終ってしまった。


 釈然としないまま教室に戻りつつ、俺は考える。


 二人の話を聞いて、お互いに大切にし合ってるのが分かったのに、何故こんなにもこじれてしまったのだろう。


 コミュニケーションはもっとシンプルなモノだと思っているのは、俺がぼっちで経験がほぼないからだろうか。


 ただ、無力感にさいなまれながら、それでも、俺は改めて思ってしまうのだ。


 だからこそ、本人同士で話をするべきなのではないのかと。

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