第29話 誘ってよかった
写真撮影した後に中央エントランスへと進むと、まずは二人で地図を確認しながらレストランへと向かい、食事の整理券を発券しておく。
「まるぷりのアトラクションの方も今の内に発券しておきますか?」
「うん、そうしよ」
ふわもこランドの魅力の一つに、グリーディングアトラクションというものがある。
ふわもこのキャラクター達のそれぞれの世界観が繁栄された施設に入って、そのキャラクターと直接触れ合ったり、写真撮影が出来るのだ。
これも待ち時間が結構長いので、レストラン同様早めに発券しておくことに。
地図を頼りに館内を進んでいくと、大きな広場に出てきた。
まるぷりのアニメで登場した王国や、森林がモチーフとなった内装が施されていて、まるでアニメの世界に紛れ込んだような、非現実感を覚えた。
二人でゆっくり館内を眺めながら歩いていると、夏目さんがそっと腕を絡めてきた。
直後、彼女の柔らかい胸の感触が、ふんわりと腕越しに伝わってくる。
肩に頭を乗せながら、彼女が呟く。
「凄いね」
「……っ! そ、そうですね」
無事アトラクションの券売機で予約券を手に入れた俺達は、パレードが始まるまでの少しの時間を、ショップで過ごすことに。
二人で品物を物色する中、夏目さんがある商品をじっと見つめている。
まるぷりのカチューシャだ。
プリンらしい黄色を基調にしたデザインで、可愛らしい作りになっている。
彼女は一度それを手に取って、頭に付けてみると、近くにあった姿鏡を見て、少し首を傾けた。
俺の方に姿を向ける夏目さん。
「……どうかな」
正直に言うと、凄く似合っていた。
おっとりした彼女の性格と、まるぷりの垂れた耳が見事に引き立て合っていた。
「その、……か、可愛いと、思います」
「……」
彼女は少し顔を伏せる。
その頬は、少しばかり紅潮しているように見えた。
「……ありがとう」
そのままカチューシャを購入して頭に付ける夏目さんを眺めつつ、パレード開始間際になったので、その場所へと移動する。
「……ここですね」
「うん」
大勢のお客さんとその時を待ちわびていると、辺り一面が徐々に暗くなっていく。
緊張と期待感が入り混じる中、背景の舞台やオブジェ達が徐々にライトアップされて行き、色鮮やかな服装に身を包んだ女性達が歌いながら姿を表した。
感情表現豊かな表情を見せつつ、激しい身振り手振りを交えながら、歌って踊る彼女達を見て、一気に劇に引き込まれる。
次第に両脇からふわもこのキャラクターも踊りながら登場して、舞台はより一層華やかさを増した。
そこから三十分ほど、ひたすらパレードに魅了され続けていると、夏目さんが肩を寄せてきた。
耳元に顔を近づけて、吐息交じりに問いかけてきた。
「ねえ、……楽しい?」
彼女を見ると、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
「凄く楽しいです」
俺は心から思ったことを口にした。
「夏目さんはどうですか?」
「……私も」
それは、ふわもこランドに来たからだけじゃない。
「……誘って、よかった」
他ならない彼女の存在があるからだった。
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