第28話 ふわもこランド
そうして迎えた、ふわもこランド当日。
緊張した面持ちで待ち合わせの駅へと向かうと、
「おはよう、田所君」
「……っ! お、おはよう、……ございます」
普段とは全く印象の異なる服装をした夏目さんの姿があった。
ウエストが軽く絞られたシンプルな水色の膝丈ワンピースに、薄手の白いカーディガンを羽織っていて、足元には白いバレエシューズを合わせている。
掛けているショルダーバッグもシンプルで控えめなデザインをしていて、以前のカジュアルな服装とは違い、今回の彼女は清楚で大人びていて、より落ち着いた印象を与えていた。
「……変だったかな」
俺が彼女の姿に魅せられていると、夏目さんが目を伏せてしまった。
「そ、そうじゃなくて」
「?」
「そ、その、……凄く綺麗だなって、思って」
「……」
その言葉が言い終わるや否や、彼女が額をそっと俺の胸元に寄せてきた。
「……嬉しい」
待ちわびた二人だけのひと時を、電車の時間が来るまで大切に過ごした。
◇◇◇
電車で三十分ほど移動して、ふわもこランドの最寄り駅に到着した。
すると、
「……す、凄いですね」
「……うん」
ホームの柱や壁、天井、売店に至るまで、ふわもこのキャラクターデザインが施されていた。
まだふわもこランドに着いていないのに、その世界観の一部に触れているようで、「本当に来たんだ」と心が躍る。
「な、夏目さんも、来るの初めてなんですよね?」
「うん、初めて」
駅構内の景色に夢中になっている彼女を見て、俺よりも楽しんでいる気持ちが伝わってくる。
その楽しさを分かち合えていることを、心から嬉しく思った。
ワクワクしながら徒歩で五分ほど歩くと、ふわもこランドの外観が目に入ってきた。
カラフルで可愛らしいデザインをしていて、入り口付近には、ふわもこの代表的なキャラクター達のオブジェが飾られている。
そのまま歩を進めると、場を埋め尽くす程の長蛇の列が視界に広がっていた。
二人で最後尾から並ぶと、事前に彼女と決めていた行動を再確認する。
「た、確かパレードが一階で十時半からでしたよね」
「うん」
「その後レストランでお昼を食べて」
「レストラン結構並ぶみたいだよ」
「あ、らしいですね。入場したら、最初にレストランの発券とかしておきます?」
「……え?」
「ちょっと常連さんの動画観たんですけど、発券しておくとすぐに入れるらしいですよ」
「そうなんだね」
俺自身、純粋な気持ちで初見を楽しみたいからあまり全容は見てないけれど、せっかく夏目さんと来たのなら、名一杯楽しみたいと思った。
少しでも思い出に残るように。
夏目さんが肩を寄せてくる。
「……ありがとう」
しばらく肩を寄せ合っていると開園時間になり、事前にネットで購入していたチケットをスタッフさんに見せて、二人で入場ゲートをくぐった。
すると、入り口付近ではクロミーと、長い耳を持ち空を飛ぶ犬のキャラクター、フワリンが手を振って出迎えてくれた。
ぴょんぴょん跳ねながら短い手を振る仕草が何とも愛らしい。
「……可愛い」
隣の夏目さんの瞳が輝いているのが分かった。
「……い、一緒に撮ってみますか?」
「……え?」
目の前で写真を撮る人達を見つめながら、夏目さんにそう提案してみた。
彼女は少し逡巡するように固まった後、
「……うん」
そう静かに返事をした。
スタッフさんにお願いして、夏目さんがクロミー達と一緒に写真を撮れるようお願いする中、夏目さんが俺の手をそっと掴んできた。
「田所君も、……一緒に」
「……え?」
彼女のまなざしは、少し不安が混じっている様に見えた。
だから、俺はその分優しく笑いかける。
「もちろん! 行きましょう!」
そのまま彼女の手を軽く引いて、クロミー、フワリン達と一緒に写真を撮った。
後でスタッフさんに見せてもらった写真には、両端の口角を僅かに上げているように見える夏目さんの姿が写っていた。
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