第30話 レストラン
パレードを見終わった俺達は、その余韻に浸りながらレストランへと入った。
夏目さんはミルフィの顔の形にご飯が整えられたカレーライスを頼み、俺はパンズがまるぷりの形をしたハンバーガーを注文した。
テーブルに届いた料理はどちらも出来栄えがよく、崩して食べるのが勿体なく感じる。
「……写真撮っても良い?」
夏目さんが、自分のスマホを取り出して、撮影を始めた。
「な、夏目さんは、SNSとかやってるんですか?」
「ううん、……思い出にしようと思って。それに、頑張って作ったのに勿体ないから」
そんな彼女の言葉に温かみを感じつつ、二人で食事を行う。
「そ、それにしてもパレード凄かったですね」
「うん。全部可愛くて、綺麗だった」
「それ、本当に俺も思いました。びっくりしました」
パレード中はまるで夜空に星を散りばめたように、光り輝く幻想的なイルミネーションが会場を包んでいた。
その中で、まるぷりのキャラクター達や、男性スタッフさん女性スタッフさん達が一体となって舞台の上を動き回り、俺達を夢の世界へといざなった。
夏目さんの瞳には、まだその夢の名残が残っているようで、キラキラと輝いている。
「話も凄い良かった」
「湖がキレイになって良かったですよね」
「……うん」
シナリオ仕立てのパレードは、汚れてしまった森の湖を、集めた星の光で綺麗にする感動的な物語だった。
星の光を集める冒険の果てに、湖を汚した悪い女王を改心させ、最後には観客全員でペンライトを振って、その光の力で湖が輝きを取り戻す。
途中、光が会場を包む中、何度もペンライトを振る場面があり、
「……」
夏目さんは少し恥ずかしそうに、手にしたペンライトを振ろうとしては、躊躇っている様子だった。
「ほ、ほら、夏目さんも一緒に!」
俺自身が楽しんでた事もあるけど、彼女が恥ずかしくならないように、俺は笑顔で全力でペンライトを振ってみせた。
「……うん」
彼女も戸惑いながらもペンライトを振り始め、次第にその力が強くなっていき、その様子に俺も嬉しくなって笑みがこぼれた。
その後パレードに視線を戻そうとして、ふと横を見た時に、夏目さんがじっと俺を見ていたのが気になったけど。
「……凄く、楽しかった」
食事をとりながら満足そうにそう話す今の彼女を見ていると、子供っぽく思われたかな? という俺の不安は杞憂だったと安心する。
その時、ふと彼女が俺を見つめる。
「ねえ、食べる?」
「……え?」
「カレー」
夏目さんが視線をまっすぐ俺に向けながらそう言ってきた。
どうやら考え事をしながらカレーを見つめてしまっていたらしい。
「あ、ありがとうございます」
俺が咄嗟にそう言うと、
「少し、熱いかも」
彼女はスプーンの先端を口元に近づけて、ふーふーと息を吹きかける。
その薄く開いた艶のある唇は、どこか色っぽさを漂わせた。
「これで、大丈夫」
そのまま差し出してきた彼女のスプーンを、俺は口に運んだ。
口に広がる暖かなカレーの味は、料理以上のモノを感じさせた。
「美味しい?」
「……お、美味しいです」
緊張しながら俺が咀嚼する中、夏目さんが俺のまるぷりのハンバーガーを眺めている。
そして、
「私も……田所くんのが欲しい」
「え?」
「ねえ、食べて良い?」
「ど、どうぞ」
俺がそう言うと、夏目さんが髪を耳に掛けながら目を閉じて、口を少しだけ開ける。
その無防備な姿に、俺は思わず息を呑んだ。
恐る恐る手を伸ばし、持ったハンバーガーを彼女の口元に近づける。
「……んっ」
彼女はハンバーガーを齧るとゆっくりと舌の上で味わうように咀嚼し、飲み込んだ。
その後、静かに目を開けて言った。
「美味しい」
「……よ、良かったです」
高鳴る胸を抑えながら、俺は自分のハンバーガーを再度齧った。
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