第14話 家に来る
学校が終わると、夏目さんと二人で駅まで歩き、電車に揺られながら俺の家へと向かう。
二人で並んで座る中、状況を飲み込めていない俺に、夏目さんが尋ねてくる。
「何が食べたいの?」
その声は耳元で囁くように控えめだった。
「何でも良いよ」
電車が揺れる度に、彼女とほんの少しだけ肩が触れ合う。
太ももから膝、そしてふくらはぎにかけての滑らかな白いラインが不意に目に飛び込んできて、俺は視線を反らした。
「パ、パスタとか、ですかね」
「そっか」
それからの彼女は、無言のまま何かを深く考え込んでいた。
最寄り駅に着くと、俺の家から近いスーパーへと足を運ぶ。
入店すると、二人で食材を選びながら歩き出す。
「パスタの中で食べたい種類とかある?」
「な、何でも大丈夫です」
作ってくれるだけで凄くありがたい。
既に家にある材料を夏目さんに伝えると、彼女は俺が持っている買い物かごにツナ缶や大葉などを入れていく。
会計を終えてお店を出ると、再び俺の家へと向かって歩き出す。
そして数分後、家に到着した。
俺の家は築年数の古い平屋で、四人家族で暮らしている。
夏目さんがいる事に違和感を感じながら、俺は彼女を家の中へと案内した。
手を洗ってお茶を出し、少し休んだ後、早速彼女が作ってくれることに。
「な、夏目さん、エプロンいりますか?」
「ありがとう」
普段母が使っているエプロンを身につけた夏目さんは、驚くほど家庭的な雰囲気を漂わせていて、よく似合っていた。
彼女は俺の家の台所に馴染みがないので、必要な調理器具や調味料は俺が用意する。
というより、流石に俺だけ何もしない訳には行かない。
夏目さんはパスタを茹でるために、鍋にたっぷりの水を入れて、コンロを点火した。
沸騰するまでの間、手際よくソース作りを始める。
ボウルにごま油、醤油、ポン酢を入れて混ぜ、ツナ缶を加えて軽くほぐしていく。
鍋が沸騰したら塩を加え、パスタを二人前分投入した。
次にまな板の上で大葉を千切りにしていく。
そして、白ごまを軽くフライパンで炒る夏目さん。
「こうすると、香ばしさが引き立つ」
「そ、そうなんですね」
茹でがったパスタを冷水で冷やし、余分な水気をふき取る。
それを綺麗に器に盛ったのち、最後に大葉と白ごまをトッピングした。
「出来た、冷製パスタ」
「……す、凄いですね」
彼女の作った冷製パスタは、ツナと大葉が綺麗に並び、そこに白ゴマがパラパラとちりばめられている。
見た目はシンプルなのに、何処か洗練されている感じがした。
「い、いただきます」
「どうぞ」
二人で向かい合って座り、静かな空気の中、食事を始める。
俺はフォークでパスタを巻いて、それを口に運んだ。
「……っ!」
程よく酸味の効いたソースが絡まったパスタ。
咀嚼する度に、その風味が口の中に広がっていく。
食べる手が止まらなくなりそうだった。
「どう?」
夏目さんがじっと俺の様子を観察している。
気のせいか、どこか不安げにも見える。
早く美味しいって伝えて安心させよう。
そう思って口を開こうとして、
「……」
「……田所君?」
俺は言葉に詰まった。
あふれ出てくる感情を止められなくなりそうだったから。
夏目さんが作ってくれた料理だ。
味は言うまでもなく美味しいに決まってる。
でもそれ以上に、嬉しくてたまらなかった。
こうして夏目さんが家に来てくれて、手間暇かけて作ってくれたことに、胸が温かくなるのを感じた。
一人は慣れていたはずなのに。
ひとまず感情は押しとどめて、今はただ、心の底から思っている事を笑顔で口にしようと思った。
「夏目さん、ありがとうございます。凄く……凄く美味しいです。幸せです」
俺の言葉を聞いた夏目さん。
瞼が僅かに見開かれ、まるで波紋が広がるようにその瞳が揺れた。
「……大げさだよ」
すぐに目を伏せたけど、気のせいか、その頬に微かな赤みが差した気がした。
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