第6話 一緒にグッズショップへ

 本屋から出た俺は駐輪場に止めていた自転車を急いで入口まで持ってきた。


 普段学校までは電車で最寄り駅まで行き、そこから自転車で通っているのだ。


 そのまま俺は夏目那月を小走りで少し案内して、


「……はぁっ……はぁっ……待って、田所君」


 息切れした彼女に呼び止められた。


 肩で息をしながら、開けた胸元が上下に小さく震えている。

 濡れた唇を軽く噛みしめる仕草が、よりその魅力を際立たせた。


「……はぁっ……ペース……早いかも」


 耳元で囁くように甘く震えるその声に、思わず鼓動が速くなる。


「す、すいません」


 確かにちょっと早かったかもしれない。

 彼女の体力まで配慮が足りなかった。


 でもこのままだと間に合わない。

 しかし彼女に無理をさせる訳にもいかない。


 俺が出した結論は、


「俺のチャリ使って下さい」

「え?」


 俺は夏目那月に自転車のハンドルを渡す。


「でも」

「行きましょう」


 彼女と押し問答になる前に俺は走り出した。


 本来なら二人乗りで青春の一ページを飾るシーンかも知れないが、俺と夏目那月はそんな関係じゃないし、二人乗りは法律で禁止されている。


 息を切らしながら運動不足でみっともなく走る俺と、その光景を眺めながら俺の自転車を漕ぐ夏目那月。


 こうして、閉店時間残り五分を残して、ふわもこのグッズショップに到着することが出来た。


「ありがとう、田所君」

「……はぁっ……いえいえっ」


 場所は把握してたけど、実際にショップに来たのは初めてで、意外と店内が広い事に気づく。


 見つかるだろうか。


 俺は店内に入って夏目那月から目当てのシャーペンの特徴を聞いて、店員さんに声を掛けた。


「限定グッズですね。あちらの棚にございます。」


 案内された先には、『期間限定』のポップがついた陳列棚があった。


 色々な商品が並んでいる中、八種類のキャラクターがデザインされたシャーペンが並んでいるコーナーもあって。


「あった」


 それが那月夏目の目当てだったようだ。


 彼女がどれを購入するか選んでいる中、俺も見知ったキャラクターが目に入る。


「クロミーだっけこれ。懐かしい」


 小学校の時に見ていたアニメの敵役として出てきた黒いウサギのキャラクターで、最初はやんちゃな悪役として登場するけど、ドジで優しさも見せることがあって、次第に仲間として受け入れられる愛らしいキャラである。


 俺はクロミーのシャーペンを手に取る。


「好きなの?」


 夏目那月が聞いてくる。


「好きっていうか……いやでも、好きかもですね。小学校の時にたまにアニメで見てて、何だかんだ優しいのが印象的だったって言うか」

「分かる。クロミーちゃん優しいよね」


 彼女はそういうと、クロミーのシャーペンを手に取った。

 他に手に持ってるグッズと一緒に購入するらしい。


「目当てのモノは見つかりました?」

「うん」


 彼女は残り一個になっていたミルフィのシャーペンを見せてきた。


 ちなみにミルフィは白うさぎの主人公である。

 友達思いで優しい、おっとり系のキャラクター。


「大切な人にあげようと思って」


 何故か彼女のその言葉に俺は若干の寂しさを覚えた。


 星野明莉かも知れないし、それ以外の誰かかも知れない。

 

 俺じゃないのは確かだ。


 ぼっちの弊害だろうか、変な事を考えるのはやめよう。


 見つかって良かった。


 こうしてグッズの購入を終えて二人で店を出た。


「ありがとう田所君。本当に助かったよ」

「いえいえ」

「こっちに来る用事ってなんだったの?」

「……え?」


 俺は本屋での夏目那月とのやり取りを思い出す。


 彼女が罪悪感を感じると思って、咄嗟に口実作ったんだっけ。


 えっと、


「ラ、ラーメン屋に行こうと思ってて」


 最近この近辺で食べた二郎系ラーメンを思い出して、そう口にする。


「そうなんだ。今から行くの?」

「え? ま、まあ」

「私も行ってみていい?」

「え?」

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