第24話 家にお泊り
結論から言うと、二人でそのままベッドで寝てしまった。
「……田所君」
彼女の吐息が、俺の唇に触れる距離。
気づくと、彼女の端正な顔が目の前まで迫ってきていて。
慌てて目が覚めた俺は、現在の時刻が夜の零時前になっていることを確認した。
「ご、ごめんなさい、夏目さん! 俺が起きてなかったから」
「私も寝ちゃったから。ごめんね」
今から終電ももう間に合わないだろう。
一応明日は祝日で学校は休みだけど、それでも年頃の女子を家に泊めるのはどうかと思った。
とはいえ他に選択肢はないわけで。
「もしもし。……ごめんね、心配かけさせちゃって」
まずは心配を掛けさせているだろう夏目さんの両親に、夏目さんが電話を掛ける。
そして少しして電話を切ると、
「大丈夫だって」
彼女は特に感情を見せることなく、いつもの調子でそう言った。
「……え、だ、大丈夫なんですか?」
「友達の家にいるって言ったら、納得してくれた」
「そ、……そうなんですね」
そういうものなんだろうか。
娘が夜遅くまで帰ってこない状況って、親からしたらもっと慌てるものだと思ってたけど。
こうしてひとまず、彼女が家に泊まることになった。
「ごめんね、田所君」
「な、何ですか?」
「お風呂借りても良い?」
「ぜ、全然、……どうぞ」
俺は夏目さんを浴室に案内しようとした所で、ふと考える。
「……あ、着替えはどうしよう」
「良いよ、また制服着るから」
「い、いえ、そう言うわけには」
俺の家には女性陣が二人いる。
母と姉だ。
でも若干小柄だから、背が高くてモデル体型な夏目さんのサイズには多分合わないと思った。
かと言って父の服を着せるのもどうかと思ったので、
「良かったら、俺の服使ってください」
今は6月半ばで俺の地域は少し蒸し暑くなってきたので、俺はTシャツとスウェットパンツをタンスから引っ張り出して、彼女に手渡した。
「……」
それを黙って見つめる夏目さん。
ひょっとして、男子の服、それも自分のを貸すのはおかしかっただろうか。
「や、やっぱり他の服も探してきますね」
後で謝るとして、母や姉の服を持ってこようとした所で、
「……大丈夫」
俺の服を軽く抱きしめながら、揺れた瞳で夏目さんがそう言った。
「……これが良い」
そうして浴槽にお湯を張って、改めて彼女をお風呂場に案内した。
「ありがとう、田所君」
脱衣所のドアが閉まると、俺は自分の部屋で待機した。
お風呂場からは、夏目さんがシャワーを浴びる音や、お湯が流れる音が聞こえてくる。
彼女が夜遅くまで俺の家にいて、あまつさえお風呂に浸かってる状況に戸惑いながらも、俺は今日一日の中で、彼女がくれた沢山の優しさを振り返って、反芻していた。
しばらくそんなことをしていると、
「出たよ。ありがとう」
お風呂から上がった彼女が部屋に入ってきた。
湯上がりの夏目さんは、頬が僅かに赤く染まっていて、体からは湯気が出るほど火照っていた。
「……凄く、……気持ちよかった」
髪はまだ湿気っていて、滴る水滴によって普段よりも更に輝いて見える。
彼女に貸したTシャツは、これから背が伸びるからと姉に買ってもらったオーバーサイズのもので、夏目さんが着ることで裾が膝まで隠れて、丈の短いワンピースみたいになっていた。
その下からは、白くて滑らかな脚がのぞいている。
「……何?」
首を傾げて俺をじっと見つめる夏目さん。
「……っ! ド、ドライヤー持ってきますね」
「……良いのに。申し訳ないよ」
俺は普段あまり使われていないドライヤーを流し台の下から持って来て、彼女に渡した。
「田所君は、どうするの?」
「え?」
「お湯、一応そのままにしておいたけど」
次は俺が風呂に入る番だ。
「そ、そうですね。……じ、じゃあ入りますね」
俺は着替えをもってお風呂場に向かった。
自分の家のお風呂に入るだけなのに、ここまで緊張するのは、きっと彼女が先ほどまで浴室を使っていたからだろう。
「……」
今日は夏目さんにかなりの無理をさせてしまった。
明日になったら、夏目さんを彼女の家の近くまでしっかり送り届けに行こう。
余計な雑念を拭い去るように、俺は体を洗い始めた。
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