第50話 告白

「大丈夫だよ。明莉との関係は、順調だから」


 星野さんに気持ちを伝えることができたと、夏目さんは俺に話してくれた。

 話を終えると、彼女は少し、安心した様子を見せる。


 きっと彼女たちなりに今の関係性に折り合いをつけたのだと思う。


 その結果が、どう転ぶかは分からない。

 けれど、良い方向に進んで欲しいと思ったし、もし進まなかったら、その時は俺も力になろうと思った。


 そんな事を考えていると、


「田所君のおかげだよ」

「……え?」

「私が、明莉に伝えられたのは」


 夏目さんが俺を見つめてきた。


「ありがとう」


 白く透き通った手先が、そっと俺の手に重なった。


「……お、俺は何も」


 夏目さんの存在に支えられて、星野さんの言葉に背中を押してもらって、ようやく自分の気持ちを少し吐き出しただけだ。


「そんな事ないよ」


 俺の考えを否定するように、夏目さんの握る手が強くなる。


「田所君がいなかったら、きっと何も言えなかったから」


 彼女の力強い視線が俺を射抜く中、


 河川敷全体にアナウンスが大音量で流れてきた。


 どうやら、もうすぐ花火が打ちあがるようだった。


「楽しみですね」

「……うん」


 辛気臭い話を一旦打ち止めにして、二人で待っていると、大きな音があたりに響き、次の瞬間に光の玉が夜空に向かって勢いよく登っていった。


 そして、空高くまでそれが打ちあがると、次の瞬間、ドン! という大音量があたりに響いた。


 遠くから、花火を眺めることは過去幾度となくあったけれど、この近距離の大迫力で堪能したことのない花火を見て、俺自身興奮が隠し切れなかった。


 夏目さんを見ると、花火の光を反射した彼女の瞳がキラキラと輝いている。


 彼女が楽しんでいる様子を眺めた俺は、改めて安心して花火を眺める事に。


 すると、


 夏目さんが俺に寄りかかってきた。


「凄く綺麗」

「そ、そうですね」

「……ねえ、こっちを見て」


 そう囁く夏目さんの方に俺は視線を向けた。


 彼女の顔が至近距離にあって、視線や吐息が絡みついた。


 彼女は薄く口を開いては閉じてを繰り返し、そして、


「私、田所君の事が」


 瞬間、花火の鳴る音があたり一帯に響いた。


 それでも、俺の耳にはきちんと彼女の気持ちが伝わっていた。


「お、俺もです」

「……え?」

「俺も、夏目さんの事が好きでした」

「……うん」


 ゆっくりと俺達はお互いの肩を静かに寄せ合った。


 二人して見つめ合って、徐々にその距離が近くなって。


 そして、俺達は唇を重ね合わせた。


 目を瞑った状態で、夏目さんの唇の湿った感触と、花火の盛大な音だけを感じていた。


 彼女は今、何を感じているだろうか。


 数秒して俺達は離れると、潤んだ瞳で夏目さんは言う。


「キスしちゃったね」

「そ、そうですね」


 お互いに直視できずに、花火を見上げる。


 ぼっちの俺が、こうして誰かと一緒に祭りに来て花火を楽しむなんて、少し前なら考えられなかった。


 ありのままの自分を出し合える親密な繋がり、その存在のありがたさなんて、一人では絶対に気付くことが出来なかった。


 それを教えてくれたのは、今隣にいる夏目さんだ。


「ありがとう、夏目さん」


 きっと、今日の事は、生涯忘れないだろうと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る