第17話 メッセージアプリ
それから数日が経って、金曜日になった。
土日休みが控えてると考えるだけで、大した予定がなくても心が弾む。
ただ、最近はその嬉しさの中に、寂しさが混じるようにもなった。
来週まで夏目さんと会えないからだ。
この時期になると、お互い会話の口数が減って、心なしか夏目さんが俺を見つめる頻度が増える気がする。
午後の移動教室で早く美術室に来て、今二人きりで話してるこの時間が、きっと今週最後の彼女との会話になるのだろう。
そう考えていたら、
「田所君、メッセージアプリ、使ってる?」
「……え?」
夏目さんがそう尋ねてきた。
基本ぼっちな俺のスマホにはそう言った類のアプリは入っていない。
「や、やってないですね」
俺がそう言うと、夏目さんが一言「そうなんだ」と呟いた。
どこか潤んだ瞳と震えた声で彼女は続ける。
「じゃあ、入れてみない?」
「え?」
「田所君の、欲しいから」
夏目さんが小首を傾げ、上目遣いで覗いてくる。
「嫌だった?」
「……っ! い、いえ」
初めて連絡先を聞かれて戸惑っただけだ。
早速アプリを入れようと四苦八苦してる俺のすぐ隣に、夏目さんが椅子を置いて腰掛ける。
「ここから入れるんだよ。……触って良い?」
微かに漏れる彼女の吐息。
開いた胸元から覗く柔らかな肌。
細く整った指先が、俺のスマホに触れ、その画面をゆっくりとなぞった。
その後、夏目さんにアプリをインストールしてもらって、使い方も教わったけど、俺は緊張からか、理解するのに時間が掛かった。
◇◇◇
学校からの帰り道、スマホの通知音が鳴った。
【(夏目)田所君、こんばんわ(*´ω`*)】
夏目さんからだった。
早速送ってくれたらしい。
【(田所)夏目さん、こんばんわ】
【(夏目)よろしくね( ̄∇ ̄)】
普段の彼女とは全く印象の離れた顔文字やグッド、ハートマークなどがメッセージの最後に添えられている。
【(田所)顔文字可愛いですね】
【(夏目)こうすると可愛いって教えてもらった】
【(田所)なるほど】
そのまま二人で夜まで他愛もないやり取りをした。
そろそろ切り上げないと迷惑じゃないかと思い始めた頃、
【(夏目)ごめんね、急に】
突然夏目さんが謝って来た。
【(田所)え、何がですか?】
【(夏目)私がやり取りしたいって言ったから】
メッセージアプリを入れた事だろうか。
文字でのやり取りだと、どこか彼女がしおらしく感じる。
何一つ夏目さんが謝る事なんてない。
【(田所)とんでもないです。凄く嬉しかったです】
【(夏目)?】
【(田所)俺も、もっと夏目さんと話したかったので】
夏目さんの返信は来ていない。
【(田所)俺から言うべきでした。すみません。だから、誘ってくれて本当にありがとうございます】
俺が最後にそう送ると、夏目さんから返信が返ってこなくなってしまった。
メッセージには既読マークが付いている。
当然彼女にも用事があると分かっていても、気になってしまう。
初めて使うメッセージアプリに翻弄されていると、一時間後に夏目さんから返信が送られてきた。
【(夏目)田所君、明日用事ある?】
瞬間、俺の心臓が跳ねる。
【(田所)特には、ないですね】
また数経って、彼女が再度メッセージを返してきた。
【(夏目)もしよかったら、遊ばない?】
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