第42話 同居
授業が終わって放課後、大地は大きめのスポーツバックを持って我が家にやって来た。
本来なら寮生活の彼だけど、それにしても荷物が少ない。
「しばらくお世話になります」
彼は私と一緒に出迎えた母に挨拶をする。それは爽やかな笑顔で。
「佐伯君、いらっしゃい」
母はニコリと微笑む。
吸血鬼の仲間入りした母の老いていくスピードは遅く、きっと私の姉と紹介しても疑われないと思う。微笑みも初々しい。
「お部屋の準備、急いで掃除したんだけど…ごめんなさいね、空き部屋だったから埃っぽいかも」
「いえ、大丈夫です。おかまいなく」
母は大地を部屋に案内する。その後を私が着いて行く感じになっていた。
(私…オマケ?)
大地に案内した部屋は、私の部屋の隣り。
いつか生まれてくる予定だった弟か妹の部屋になる場所だった部屋。
部屋と部屋の間にウォークインクローゼットがあって、そこから部屋を行き来する事ができる間取りになっている。つまり…行動さえ起こせば、簡単に私の部屋に入って来れるという事。それは私も同じ。
最低限の家具は揃っているから不自由はないハズ。
「良い部屋ですね。外の眺めも良い」
窓から見える風景は屋敷の中庭。母のガーデニング庭園。祖母から引き継いだと聞いている。
「すぐに夕食だからね」
そう言うと、母は部屋を出て行った。私も自分の部屋に戻り制服から着替えようと思った。
繋がるクローゼット。ここに私の私服もある。一層の事、突っ切って戻ろうか。
「あ、そうだ…」
私は何度も過った考えを確認する。
「私達って…結局、大地はお父さんとの約束を果たすために同居であって…私との契約は無効だよね?」
つまり、婚約者をわざわざアピールする必要ないんだよね?って事。
「別に、何でも良いよ。結局は同じトコにいるんだ」
「…同じ…ね…」
私にはわからない。大地が私をどういう風に思っているのか。少なくとも今現在、私と恋愛感情を築こうとしている風には見えない。
私達の関係は同級生であって【姫】や【騎士】はお互いに意識していないと…私は思う。
大地が同居する事になったのを知って、蓮君はどんな反応をするのだろうと思った。帰宅して敷地内に知らない人がいれば怪訝に思うよね…きっと。
でも…蓮君が両親のいる領域に姿を見せる事は滅多にない。だからきっと、気配は感じても確認には来ないはず。
(そうなると…呼び出し…かな?)
なんて思っていると、スマホの着信音が鳴る。確認しなくてもわかる…そうだって。
溜息をつきたい衝動を抑え、黙々と食事を済ませる。目の前には楽しそうな両親と大地。こうしてると…本当の家族に見える。
両親にとって大地は息子感覚なのかな?私の兄とか弟とかそんな。
「ごちそうさま」
食事を終わらせ、食器を運ぶ。
「私、先に戻るね」
残った3人に声をかけ、部屋を出る。
自室までの間にスマホを見ると、やっぱり。
『食事終えたら、おいで』
もう溜息しか出ない。一見、優しそうな文章に見えるけど…込められている感情は違う。
『おいで』じゃない『来い』なんだよね。
これは条件反射というか…私は自分の部屋じゃなくて、蓮君の部屋に向かい歩きはじめる。
「美空」
すると食事を終えた大地が部屋から出てきた。
「部屋、そっちじゃないだろ」
ジッと見てくる大地。凄く気まずい。だって…多分、察してる。
「それじゃ、俺がココにいる意味がない」
「…そう…だよね…」
でもさ…いつまでも姿を見せなかったら…きっと、蓮君が部屋まで来てしまう。お仕置きされてしまう可能性が高くなる。
「現状を変えたいから、俺を必要としたんだろ?もっと強気でいたらどうなんだ?そんなだから支配される」
「…そう…だよね…」
わかってる。でも、やっぱり怖いんだ。
「ほら、戻るぞ。俺が一緒にいるから」
「ぅん」
大地に手を取られ歩き出す。自分たちの部屋に向かって。
隣同士の部屋って…正直、安心感には欠ける。
だって、鍵をかけたらいざっていう時入って来れない。それって守れる保証ないよね。
だから、そう声をかけられても…不安なんだ。
信じていないわけじゃないんだけど。
****
てっきり、大地は自分の部屋に戻るものだと思っていた。だけど…。
「不安なんだろ?」
「え?」
「そんな顔してる」
咄嗟に自分の顔に手をやる。そんなに顔に出ていた?何だか恥ずかしい。
「あ、でも…ずっと一緒っていうワケにもいかないし…」
今日だけじゃない。蓮君の場合はいつ、どこに現れるかわからない。四六時中、大地に一緒にいてもらうわけにもいかないから…。
「いるよ?なんなら、一緒に寝るし」
「へ?」
思いもしなかった言葉に変な声が出てしまった。
「美空はさ、この先をどうしたいわけ?」
「この先?」
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