第20話 16歳へのカウント
私が吸血鬼になって、この血を失えば…私を狙う者はいなくなる。
私からこの血がなくなれば…愁先輩が後継者に名乗り上げなくても…私を手に入れられる。
覚悟は私の中では出来ている。人間であることに未練はない。
だって、彼らの生活を見てても吸血以外は他の人とほとんど変わらない。ただ…人生が永いだけ…。これが最良の選択だって思ってる。
「菜月の家族は…悲しむんじゃないか?」
「…」
愁先輩が心配してくれる。だけど…。
「私、話してませんでしたよね…両親の事…。どうして、この学園を選んで入学したのかも…」
私には事情があったから今、ここで愁先輩と一緒にいれるんだ。
広くて殺風景な愁先輩の部屋…。
16歳になる瞬間を迎える為…ココを選んだ。
月村の屋敷にまで、他の吸血鬼は入ってこない。そして、ここには同じ屋根の下、理事長がいる。
私はきっと…両親に今も守られているんだ…。
「私の両親…事故で…亡くなって…いないんです」
私の両親は…私が14歳中学2年生の時に交通事故で亡くなった。高速道路の玉突き事故。
その日は結婚記念日で、2人で出かけていた。
朝から出発して夜には帰るからと、日帰りで温泉に行ったのだ。
私は一人っ子で、他に兄弟はいない。
学校から帰ると、私は近所に住む祖母の家に行った。父方の祖父母はすでに他界していて、母方は離婚しているので祖母しかいない。
両親とも私と同じく一人っ子だったので、イトコも存在しない。
だから…両親が亡くなると、私の身内は祖母だけだった。祖母が私の保護者…。
だけど、祖母も若くはないから…足腰と弱っていった。
だから、決めたんだ…。
祖母に負担をかけない様に、寮のある高校に入学するって。
高校くらいなら、両親が残してくれた私への貯金と少しの遺産で何とかなると思ったから。高校を出たら働く気でいたから。
そう決めて、見学に来た時に愁先輩と出会った。
もし、両親が生きていて…普通に高校生になっていたとしたら?私は愁先輩に出会っていないのだろうか?
少なくとも、蓮先輩は私の血の匂いを嗅ぎつけて来るような気がする。他の吸血鬼達もそう。
私はきっと、彼らの餌として通り魔のように襲われていたのではないかなって思う。私自身、事情を知る事はなかったハズだから。
そう思えば、私は両親に守られていたんだと思える。
だから、両親は…悲しまないよね?
「…そう…か…」
私の話を聞いて、愁先輩は目を伏せた。楽しい話ではないから仕方がない。
「だから、心配しないで下さい。気に病まず…私を…仲間にして?」
愁先輩は私を抱きしめた。
「ん…俺も…覚悟決めた…。明日にでも、祖父…いや…父に儀式の行い方を聞いてみるよ…」
「うん」
抱きしめてくれている愁先輩を抱きしめ返す。愛しい温もり。自然と求め合う唇。
私…いつの間にか、この行為に喜びを感じていた。
愛してると全てで伝えてくれる。愛されていると全てで感じる。
「菜月…凄い…」
「何が?」
「これってフェロモンって言うのか?血の匂いが…」
愁先輩は口元を抑えた。瞳の色が紫色に変化しつつある。
私は時計を確認した。
日付が変更して…1分を経過していたのだ。
「16歳に…なったんだ…」
意外と冷静な私…。私の中では特に変化を感じないから…。でも…。
「…誕生日…おめでとう…。っていうか…ちょっと予想以上で…落ち着くまで少し…待って…」
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