第19話 【姫】と呼ばれる存在
彼女は少女の姿でココに存在していた…。
私は彼女をマジマジと見ていた。
だって…彼女の姿は、私とそんなに変わらない。10代にも20代にも見える年齢層に見えた。
「凄く、驚くのね?聞いているんでしょ?私が吸血鬼の仲間入りした事」
私は無言で頷いた。すると彼女は優しく微笑んだ。
「私、20歳になる頃に人間じゃなくなったの…。だから、その頃のまま…ユックリとしか老いて行かないから…」
「でも…200年…」
200年も生きてて、ここまで若いなんて凄い…。
「見た目は若くても…精神的にはもう…。
人間の付き合いが出来ないの…。知り合う人の方が…先に逝ってしまう。老けない人間なんて存在しないでしょ?」
彼女は微笑みながらも悲しそうだった。
「特殊の血…私が【姫】じゃなかったら…時々、そう思う」
「姫?お姫様だったんですか?」
彼女は首を横に振る。
「違うわ。特殊の血を持つ者を…彼らは【姫】と呼ぶの。特に名称がないから」
そうなんだ…知らなかった…。正直、名称とかに興味なかったから。
そもそもが血の話であって、愁先輩や理事長だって私を名前で呼んでくれている。
「姫じゃなかったら…
それって、血で狙われる事より悲しい事だと思うの。私は、私の人生…これで良かった」
彼女は私の心を感じたのだろうか…。私も同じような事を考えていた。
この血がなかったら…愁先輩と出会っていなかったのでは…そう思ったから。
そう思えば、捨てたものではないかもしれないって。
「菜月さん、私ね…正直、同じ道を進める事は出来ない。
だって本当に時間が永いの…感覚がマヒしてしまうほど。
自分の親、友達は年老いて死んでいくのに…自分は同じ時間を生きれない。
私がこの道を選んだのは、始さんの事を全てで愛していたから。
確かに狙われて暮らしていくのは怖かったけど…それから解放されたいからじゃない。
一緒に生きていくって決めたから。1人より2人の方が楽しいでしょ?
それに、いつか出来ると思っていた彼との子供の成長も見たかったの。なかなか出来にくい体質にはなってしまったけど…」
「葵さんは…愁先輩と会ってるんですか?」
愁先輩から葵さんの話を聞いたことがなかった。愁先輩は母親を知らないと言っていたんだもの…。
「私の存在は知っているわ。ただ…始さんの愛人という存在としてだけど…。
成長は見てきてる。本当なら…育てたかったけど…」
求めていたもののハズなのに…どうして…生んだのに育てられないの?
「私…愁を宿してから…意識を維持する事が難しくなったの。吸血鬼の血を交えても…所詮は人間…。
200年も生きてると…衰えが出てくる。その衰えを修繕しようと脳が働いて…私を眠りの世界に誘う。限界なんだと思う…そろそろ。
そんな眠りについてばかりの私が…育てられるわけもなく…。見守るしかできなかった…。
頑張って生んだのに…母親と名乗れてないのよ…寂しい事に」
「今からでも…名乗ったらどうですか?」
そんなの悲しい…。愁先輩だって、本当の母親に会いたいんじゃ…。
彼女は力なく笑った。
「今日はココに来れても…明日の保証はないの。私の時間は…もう長くない…。
始さんは…私に合わせて朽ちようと…もう200年血を口にしていない…。だから全てを急いでいるのよ。
私は次に目を覚ます日がいつなのか、わからない。もしかすると…そのまま目を覚まさないかもしれない…。
そんなギリギリで今を生きてるから…」
「だったら、余計に…余計に、愁先輩に母親と名乗るべきじゃないですか?
母親として、愁先輩を抱きしめたいと思わないんですか?」
他人事なのに必死だった。だって…。
「そうね…会いたいわ…。次に目が覚めたら…愁に会いに行こうかしら…。会えるかしら…」
今すぐ、走って愁先輩を連れて来たい。そう思った。けど…。
「葵さん?」
急に眠気が襲って来たのか、彼女はふらついていた。焦点が合っていない。
「本当…困る…。急に意識が飛びそうになるの…」
私は咄嗟に彼女を支えた。どうしたら良いのだろう…。
「葵」
困惑していると、奥から理事長が姿を現した。
まるで予期していたかのように。
理事長は彼女を抱き上げた。
「キミ達2人が出会うなんてね…」
「あの…」
私は無意識に声をかけていた。その先に、何を言ったら良いのかわからずに…。
「見ての通りだよ。僕は彼女と一緒に眠りにつく…。その為に、後継者が必要なんだ。
わかってくれるかい?」
頷くしかなかった。
だって…命の事なんてどうしようもない事だもの。
それに…私も同じ運命の中に身を投じる事になる。葵さんと同じように、終止符を打つことになるんだ…。
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