第18話 戸惑い

【その血は…彼らを魅了する…】


鼓動が早い…凄く怖くて仕方がない。


「菜月?顔色悪いけど…大丈夫?」


優希が心配そうに覗き込む。それに対して私は笑顔で返した。心配かけたくない。


「今日も、愁先輩と一夜を共にするのかな?んも~エッチなんだから~!でも、誕生日なんだもん!一緒に過ごしたいよね~」


優希がテンション高く楽しそうにしていた。


「明日になったら16歳かぁ~!おめでと~!でも、菜月は結婚できる年齢だけど愁先輩はまだ1年あるんだからね!ちゃんと避妊はしなきゃダメだよ!?」

「…それ…何の心配ですか?」

「だって、愁先輩だよ?何かそこら辺、ルーズそうじゃない?」


私は苦笑いをしてしまう。

周囲の愁先輩のイメージって相変わらず軽いイメージが抜けない。これは一般の生徒から見た意見。

この数日の変化を一般人の周囲の人が知るわけもない。愁先輩は…正直、かなり変化したと思う。


他の吸血鬼に対して、かなり威圧的になった。私の至近距離に近付くことを許さない。

夕映先輩さえも警戒している。

だから余計に緊張してしまってるんだと思う。自分ではわからないけど…。血が…完成されてきているんだって思い知らされる。


だけど1日ずっと一緒にいれるわけじゃない。

四六時中、愁先輩に守られているわけじゃないから…怖い。


「最近、菜月ってばモテ期?よく男子に見られてない?」

「気のせいでしょ」


そう。時々、視線を感じる。

あ…彼らは吸血鬼で、狙ってるんだなって。


「私、ちょっと用事…あるから」


そう言うと、私は優希から離れて廊下に出た。

向かう先は…人気ひとけがありながらも、私に関わりあう人がいない場所。

心配だったんだ。

優希も…普通の女の子だけど…血を狙われるんじゃないかって。巻き込んじゃわないか…気になっていた。


「菜月ちゃん」


背後からの声に私は緊張した。それは私が一番、警戒している人。


「蓮…先輩?」


笑顔だけど…目が笑っていない。


「匂い…強くなったね」


嬉しそうに声が弾んでいる。

私が思うに、蓮先輩は吸血鬼の本能が強い人だって思う。凄く、怖いって思えるから。


「愁が吸血鬼に目覚めたの…菜月ちゃんの血を舐めたからだろ?

と、いうよりも…血を与えたんだよね?それはズルいなぁ。他の吸血鬼達は禁止されているのにね」


私はその言葉を聞き流す。そんな事、どうでも良いから。


「キミは…父の愛人になるの?」

「なりません」

「じゃあ、キミの血はもうすぐ自由だね。祖父が…近々、隠居を考えてる。後継者が近々、決まるという事だ」


私は反応して、蓮先輩を見てしまった。

(理事長…もう?)

何で…そんなに急に動き出すのだろう。

蓮先輩の視線に、我に返り、私は逃げ出すことにした。


「失礼します」


小走りにその場を離れる。ココにいてはダメだってわかってるから。

私は適当に走り…知らない場所にたどり着いた。学校の奥にある小さな庭園。

噂では聞いたことがある、この庭園は…滅多に門が開いていないという話だった。


その庭園に迷い込んだ私。恐る恐る、足を踏み込む。

アジサイがキレイに並んでいて、その花を咲かせている。きっと季節ごとに区切られているのだろうと思えた。

小道の右と左で植えられている物が違ったのだ。


奥まで進むと、休憩場所が設置されていた。屋根の下にベンチとテーブルがある。

私はそこまで進むと、人の気配を感じた。花畑の中から、黒髪の女の人が現れた。

和風な装いの女性…色白で儚い感じだった。


「こんにちは」


女性が声をかけてきた。


「こんにちは…」


私はそれに返事をする。なんだろう…変に緊張する。


「アナタ…菜月さん?」

「え?」

「匂いでわかったわ」


(この人も…吸血鬼?)


「まさか…こうして同じ人に会えるなんて…」

「え?」


女性は微笑んだ。


「私、こうして、ココにいるの珍しいのよ?普段は寝てばかりだから…。私の話…聞いたことあるかしら…?」


私はかなり戸惑っていた。だって…まさか…。


「葵…さん?」


彼女はニコリと笑うと小さく頷いた。


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