第17話 選択肢

「どうして…愁先輩は理事長の孫扱いなんですか?」


ふと疑問に思ったことを質問してみた。だって、別に…孫じゃなくても良いと思うんだけど…。


「葵の存在は…誰も知らない。誰も葵が吸血鬼になった事を知らないんだ。

特殊の血の葵は僕によって死亡したと思われてる。族長が血を独り占めして…飲み干したと思われている。まぁ、実際に吸血鬼に変えた事で血は失ったんだけど。

身内は僕が半血の少女を気紛れに愛人にしたと思っている。世間体的に…うしおが望んだんだ。

多分、本心では…後継者が自分じゃなくなる可能性を排除したかったんだろうがな…。

特に深い理由じゃないよ」


確かに…お父さんと兄弟よりは、蓮先輩と兄弟の方が見栄えは良い。

人間でいたのなら…お父さんが後継者の間に…命が終わる。後継者争いにはならないだろう。


「だが…話は変わってしまったね」


理事長は私の事をジッと見た。

愁先輩は大きく溜息をつく。


「それは…父さんが、菜月を求めなければ問題ないんじゃないか?」


理事長が首を横に振る。愁先輩が言う父さんは潮さんだろう。


「長じゃない者が、彼女を手にすれば…反乱が起きる。長だから独占出来るんであって…今だって…愁が菜月さんを囲っている事に不満を持つ者は多いんだよ」


吸血鬼にとって私ってそんなに魅力的なんだ?私自身…他の人との違いがわからないのに…。


「愁が…菜月さんを求めるのなら…愁は…僕の後継者として名乗りを上げないとならない。

しかし考えてごらん?潮の次に、蓮が控えてる…。キミ達は…彼らを敵に回すことになってしまう」


(敵に…?)


「愁が名乗り上げた瞬間から…再び菜月さんは狙われる。菜月さんがいなければ…愁が名乗りを上げる理由がないからね…」


(私は…どちらにしても…狙われるんだ?)

思わず俯いてしまう。それに気付いて愁先輩は私の手を握った。


「俺は…菜月を諦めるつもりはない…」


理事長は愁先輩を真剣な瞳で見つめた。


「…キミの人生で…菜月さんは一瞬でしかないんだよ?」

「そう言うのなら…覚醒させるような事するなよ…」


覚醒しなければ、同じ時間の長さで生きていけた…。

だけど、覚醒しなければ…わかってる。

全て葛藤の選択。


「愁先輩…」


私は…。


「理事長……私を…葵さんと同じように…吸血鬼にするのって可能ですか?」

「え?」

「!」


私の申し出に戸惑う2人。

正直、私も戸惑っている。でも…葵さんは、吸血鬼になって特殊の血を失ったのだから…私だって同じはず。


「…残念だけど…僕には…無理だ…。

それを望むのなら…それは愁にしかできない…。いや…愁にそうしてもらうべきだ」


愁先輩は私の事をジッと見つめた。


「本気?」

「…ぅん…」


本当はまだ迷ってる。そんな簡単な事じゃないから。愁先輩、私のそんな気持ちわかってるんだ。

でも、自分の心を近いうちには決めなきゃ。

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