第16話 理事長の過去

*****


それは約200年前の話らしい。


「永遠なんてものはない…最初にそれだけ言わせてもらう。

僕は…500年近く生きてきているけど…僕が吸血鬼の始まりではないんだ。

ただ、僕が誰よりも力に秀でてただけで…暴走する吸血鬼達を治める為…長という役割を担ったんだよ。剣には鞘がないとね…。


そして…その集落を【月村】と名付けた。満月の夜だったよ。


吸血鬼は血を絶やさない為にか同族婚が当たり前で…。僕の両親も吸血鬼だった。

長寿の僕らは…ある程度の年齢までいくと急に老化が止まる。それは餌を引き寄せる為の術だった。不老長寿ってやつだね…決して不死ではない。死ぬ時が…来るんだよ…実際に。


同族による殺し合い…貶め合い…寿命…。特に統一するまでは激しかった。


統一して、緩い時間が流れるようになると…人間と愛し合う吸血鬼も多々現れた。それもまた人生…否定はしなかったよ。

実際、僕だって愛しいと思える人間の娘と子を作った事もある。

でも…生きる時間が違うから…相手は死んでいく…。

吸血鬼が血を吸えば…吸われた相手も吸血鬼になるなんて、よく物語とかであるけど…実際には違う。ただ簡単ではなくリスクはかなり高いうえ、並みの吸血鬼にはそれが出来ないだけで実際には難しいんだ。

そして…純血ではない者たちは…長生きしても150年が最高だった。

子さえも親より先に死んでいくんだ…。


だからね…僕は…同族の女を妻にしたんだ。あまりにも寂しかったからね…。

それで生まれたのが…潮…蓮の父親と…夕映の母親だ。


そして特殊な血の存在は…遥昔からあって…。彼女を巡って争いが絶えることはなかった。

実際には…僕が存在して今まで、菜月さんを合わせて4人と出会ったよ。


1人目はまだ族長になる前で…彼女は他の同族に全ての血を啜られ…死んでいった。

2人目は…そんな哀れな1人目を知っているので…保護したけれど…短い生涯だった。彼女は体が弱くて…ね…。

3人目は…今から約200年前に出会った…。

そして4人目は…菜月さんだ…」


そこまで話すと沈黙が流れる。


「あの…3人目の方は…どんな方なんですか?」


そのまま流されるのではないかと思い、質問してみた。なんとなく、そこを触れるべきでは?と思ったから。


案の定?理事長は躊躇いを見せた。


「彼女は…とても明るくて…いつも楽しげで…純粋な少女だった。慈愛にも満ちていて…周囲の人間にも人気があったんだ。


僕が彼女と出会った時…彼女はまだ14歳で、はみ出し者の同族に狙われているところを助けてやったんだ。

それから、やたらと懐いてきてね…微妙に父親の気分だった。当時はもう、自分には子供がいたからね。

それはとても可愛くて…世話を焼いてたよ。


そして、彼女は美しく…成長していった。男共が振り返るほど…。求愛される姿を何度も目にした。

その時に抱いた感情は娘を嫁にやる気持ちではなくて…僕は嫉妬心に溢れてしまっていた。


そう…僕は彼女を女として愛していたんだ。彼女も…僕を受け入れてくれた。僕の素性も…自分の立場も全て知った上で…。


だけど…彼女は人間だから…あっという間に…死んでしまう。愛し合う事が怖かった。

失う事が怖くて…僕は…彼女を…引き込んでしまった…自分の欲望のままに…。


…彼女は笑って受け入れてくれたけど…子供が出来にくい体になってしまった。

愛し合って、芽生える命は…育まれる事なく流れてしまう。それを繰り返すうちに…彼女の心は病んでいった…。

それでも彼女は子供を諦めきれなかった。何度、心を痛めても…希望を捨てきれずにいた。


そして…長い年月を経て…17年前にやっとの事で生まれたのが…愁…キミなんだよ…」


衝撃的な発言に動揺が隠せない私と愁先輩。理事長はそのまま話を続ける。


「やっとの事で誕生した愛の証のキミを失う事を僕は恐れた。特殊の血とはいえ…それ以外は普通の人間だったあおいは血の儀式で吸血鬼になったけど…それは半血と変わらない…。

とすれば…愁の血は純血とはいえない…。純血でない者の寿命はそれほど長くはない…。

そして確率的に、吸血鬼として目覚めるのは半々…もし目覚めなければ…更に短くなる。


やっと生まれた命が僕らの時間の中で一瞬で終わってしまう。だから、どうしても目覚めて欲しかった。

一滴でも人間の血を口にすれば…覚醒する可能性は高かったから。本当に誰の血でも良かった…人間であれば。

そう思っていた時に…菜月さんが現れた。

まだ熟成されていないが…特殊な血の者。魅惑の血を持つ者。


どうしても、愁に血を与えたかった。

菜月さんの血を口にすれば…魅了されて必ず吸血鬼として目覚めると思ったからね。


まぁ…誤算だったのは…まさか2人が惹かれあった…って事かな…」






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