第16話 理事長の過去
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それは約200年前の話らしい。
「永遠なんてものはない…最初にそれだけ言わせてもらう。
僕は…500年近く生きてきているけど…僕が吸血鬼の始まりではないんだ。
ただ、僕が誰よりも力に秀でてただけで…暴走する吸血鬼達を治める為…長という役割を担ったんだよ。剣には鞘がないとね…。
そして…その集落を【月村】と名付けた。満月の夜だったよ。
吸血鬼は血を絶やさない為にか同族婚が当たり前で…。僕の両親も吸血鬼だった。
長寿の僕らは…ある程度の年齢までいくと急に老化が止まる。それは餌を引き寄せる為の術だった。不老長寿ってやつだね…決して不死ではない。死ぬ時が…来るんだよ…実際に。
同族による殺し合い…貶め合い…寿命…。特に統一するまでは激しかった。
統一して、緩い時間が流れるようになると…人間と愛し合う吸血鬼も多々現れた。それもまた人生…否定はしなかったよ。
実際、僕だって愛しいと思える人間の娘と子を作った事もある。
でも…生きる時間が違うから…相手は死んでいく…。
吸血鬼が血を吸えば…吸われた相手も吸血鬼になるなんて、よく物語とかであるけど…実際には違う。ただ簡単ではなくリスクはかなり高いうえ、並みの吸血鬼にはそれが出来ないだけで実際には難しいんだ。
そして…純血ではない者たちは…長生きしても150年が最高だった。
子さえも親より先に死んでいくんだ…。
だからね…僕は…同族の女を妻にしたんだ。あまりにも寂しかったからね…。
それで生まれたのが…潮…蓮の父親と…夕映の母親だ。
そして特殊な血の存在は遥昔からあって…。彼女を巡って争いが絶えることはなかった。
実際には…僕が存在して今まで、菜月さんを合わせて4人と出会ったよ。
1人目はまだ族長になる前で…彼女は他の同族に全ての血を啜られ…死んでいった。
2人目は…そんな哀れな1人目を知っているので…保護したけれど…短い生涯だった。彼女は体が弱くて…ね…。
3人目は…今から約200年前に出会った…。
そして4人目は…菜月さんだ…」
そこまで話すと沈黙が流れる。
「あの…3人目の方は…どんな方なんですか?」
そのまま流されるのではないかと思い、質問してみた。なんとなく、そこを触れるべきでは?と思ったから。
案の定?理事長は躊躇いを見せた。
「彼女は…とても明るくて…いつも楽しげで…純粋な少女だった。慈愛にも満ちていて…周囲の人間にも人気があったんだ。
僕が彼女と出会った時…彼女はまだ14歳で、はみ出し者の同族に狙われているところを助けてやったんだ。
それから、やたらと懐いてきてね…微妙に父親の気分だった。当時はもう、自分には子供がいたからね。
それはとても可愛くて…世話を焼いてたよ。
そして、彼女は美しく…成長していった。男共が振り返るほど…。求愛される姿を何度も目にした。
その時に抱いた感情は娘を嫁にやる気持ちではなくて…僕は嫉妬心に溢れてしまっていた。
そう…僕は彼女を女として愛していたんだ。彼女も…僕を受け入れてくれた。僕の素性も…自分の立場も全て知った上で…。
だけど…彼女は人間だから…あっという間に…死んでしまう。愛し合う事が怖かった。
失う事が怖くて…僕は…彼女を…引き込んでしまった…自分の欲望のままに…。
…彼女は笑って受け入れてくれたけど…子供が出来にくい体になってしまった。
愛し合って、芽生える命は…育まれる事なく流れてしまう。それを繰り返すうちに…彼女の心は病んでいった…。
それでも彼女は子供を諦めきれなかった。何度、心を痛めても…希望を捨てきれずにいた。
そして…長い年月を経て…17年前にやっとの事で生まれたのが…愁…キミなんだよ…」
衝撃的な発言に動揺が隠せない私と愁先輩。理事長はそのまま話を続ける。
「やっとの事で誕生した愛の証のキミを失う事を僕は恐れた。特殊の血とはいえ…それ以外は普通の人間だった
とすれば…愁の血は純血とはいえない…。純血でない者の寿命はそれほど長くはない…。
そして確率的に、吸血鬼として目覚めるのは半々…もし目覚めなければ…更に短くなる。
やっと生まれた命が僕らの時間の中で一瞬で終わってしまう。だから、どうしても目覚めて欲しかった。
一滴でも人間の血を口にすれば…覚醒する可能性は高かったから。本当に誰の血でも良かった…人間であれば。
そう思っていた時に…菜月さんが現れた。
まだ熟成されていないが…特殊な血の者。魅惑の血を持つ者。
どうしても、愁に血を与えたかった。
菜月さんの血を口にすれば…魅了されて必ず吸血鬼として目覚めると思ったからね。
まぁ…誤算だったのは…まさか2人が惹かれあった…って事かな…」
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