第6話 理由

「あっ!!っあああああああああああぁぁぁっ!!」


校内に響き渡っていると思われるほどの叫び声…。


「ぅく…あ…」


熱い…体中が…熱くてたまらない。意識が途絶えそうだった。


「れ…蓮…先…」


振りほどこうにも力が強く…そして私が力が抜けて抵抗できない。

今起きている事が把握できない。


(どういう事?何で…何で…蓮先輩は…)


「うっ…」


立っていられなくなり、私は倒れ込んでしまう。それを蓮先輩が抱きとめた。


「大丈夫…殺しはしないから…」

「…先…輩…」


血の気がなくなり…目が霞む。そして首筋を微かに血が伝う。


「キミの血…本当に魅力的だよ…菜月ちゃん」

(血…?)

「ごちそう様」


意識が遠のく中…足音が小さくなっていく。

(どういう事…?)

今…確かに…蓮先輩は私の首筋に噛みついた。そして…血を啜っていたんだ…。


「吸血…鬼…?」


(まさかね?)

…そう思いながらも、私はその場で座り込み…意識を手放した。


*****


それから少ししてから…私に呼びかける声がした。

呼ばれる声に反応して、私は重い瞼を開ける。


「菜月!」

「…愁…先輩…?」


目の前に血相を変えた愁先輩の姿。私は不思議と安心していた。


「菜月…大丈夫か?」

「どうして…ココが?」


愁先輩はハニカミ、それには答えなかった。その代わりに私の事を強く抱きしめてくれた。

動くと響く、痛み。思わず顔を歪める。


「…俺に…力はないんだ…」

「…」


愁先輩の言葉に、先ほどの蓮先輩の言葉を思い出す。そして、先ほどの出来事も…。


「…蓮先輩に…噛まれました…」

「…」


愁先輩は何かを考え込んでいるようだった。私は愁先輩の言葉を待つことにした。

黙って…言葉を待つ…。


「察しの…通りだよ。月村の一族は…吸血鬼…だ…」


一瞬できた沈黙。私は深く深呼吸する。この不快な怠さを取り払うために。


「菜月は…知りようもないと思うけど…特殊な血を保持してるから…吸血鬼に狙われる…存在なんだ…」


愁先輩は意を決したように話し始めた。それは突拍子もない事。

衝撃のあまり…言葉も出なかった。


「数百年に一度現れると言われている…特殊な血の女…。その血は…吸血鬼にとって…最高級品で…麻薬的存在って言われてる。

美味でいて…活力を与えてくれる…血。

吸血鬼は処女の血を好むけど…その非にならないほどだっていう話。

…女の血が熟すのは…16歳…。多分…16歳になった瞬間…血を求める吸血鬼が…菜月の前に出現すると思う」

「16…歳…?」

「16になる前の今でも…菜月からは…美味しそうな匂いがしてるくらいだから…多分、相当な数に狙われる可能性高いと思う」


愁先輩は大きく溜息をついた。


「愁…先輩も?」

(吸血鬼なの?)


私の言葉を察したらしく、力なく笑う。


「昨日会った、俺の父親と名乗った人…実は祖父だよ。本物の理事長で…月村の…始祖。つまり…あの方が…一族の長…。

理事長を名乗ってたのが…本当の父。月村は同族婚が多くて、蓮は…父と同族の女性が母親。

俺は…母親が不明。生まれてすぐに引き取られたから…父と祖父以外は知らない。

ただ…俺は…吸血行為に関しては目覚めてない。純血の吸血鬼以外は…つまり人間との間に生まれた吸血鬼は…17歳までに目覚めなければ…人間なんだ。

だから…俺は…わからない。だから…俺には力がない。

ただ月村の直系だから威嚇だけは…今の時点では可能なだけであって…あのキスに…効力はない」

「…」


私は大変な事を知ってしまったような気がした。他人事じゃない事実。


(この先…私は狙われる…本当に?)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る