第5話 秘密と血

*****


「清瀬さん、さっきの見たよ」


教室に入ると、全ての生徒が注目する。

前々からいる在校生の中に今回私達新入生が混ざり込んでいる。


新参者の私達。ただでさえ注目されるのに、朝の出来事。校内に名前が知れるのも早かった。


「清瀬さん、もう愁先輩としたの?」

「した…って何をですか?」


皆が注目してる中、代表なのかサバサバ系の女子が質問してきた。


「え?知らないの?愁先輩って、女遊びが激しいので有名じゃない。しかも、処女狙い」

「し、知らない…です」


頭の中で「そうなの?」とグルグルになる。先輩ってそんな噂があるんだ?


「それでも、願いたい女子は多いけどね。だって、あの容姿でいて更に理事長の孫でしょ。興味あるよね!清瀬さんは…菜月って呼んでイイ?」

「あ、どうぞ」

「私の事は、華南かなんって呼んでね」


人なつっこい華南。容赦なく質問攻めしてくる。


「で、菜月は愁先輩の恋人なの?」

「滅相もないです!!」


ストレートな質問にアタフタしながら答える。


「私、愁先輩の事全然…何も知らないですし…」

「じゃあ、なんでキス?」

「私が聞きたいくらいです!」


皆が私の返答に耳を澄ませている。興味津々なのが伝わってくる。


「で、確認だけど…。やっぱり菜月は処女なの?」

「…うっ…」


多分私、真っ赤になってる。だって返しようがないんだもの。


「正直なんだねぇ」


華南は面白そうに笑う。

笑っていたはずの華南が、一瞬で真顔になって私に近付いてきた。

そして耳元で囁く。


「月には気を付けて」


その一言だけ言うと、また私から離れた。私は何の事だかわからずキョトンとする。



「そういえば…菜月も【月】だね」

「月?」


どういう意味があるのかわからなかった。でも、その意味はすぐ知る事になる。


***


授業初日が終わって放課後。


「清瀬菜月さん」


帰ろうと下駄箱まで来た時、背後から声をかけられた。それは愁先輩によく似た男性。


「…月村…蓮先輩…?」

「そう、どうも」


蓮先輩はフッと微笑む。愁先輩と似ているけど…似ていない。どこか冷めた笑顔。


「噂は聞いてるよ。今朝、愁に熱烈なキスをされたんだって?」

「え…まぁ…」


どう反応したらいいのか…微妙な反応をしてしまう。


「失礼な事をしたね」

「…どうして…蓮先輩が謝るんですか?」

「…どうして…かな…?」


私の事をジッと見つめる蓮先輩。

(何だろう…。この不思議な感覚)

よくわからないけど…少し怖いと思った。


「あの…私に要件でも?」


恐る恐る、声をかける。要件がないなら、できれば立ち去りたいと思ったから。


「いや。ただ、キミという女生徒を確認しておきたかっただけだよ」

「はぁ…」

「キミはキミの魅力に気付いていないんだろうね」


(私の魅力?)

私になんか何も魅力なんて無いのに。

自分で言うのもなんだけど、普通女子だと認識してる。


「雑魚は牽制できても、他は無理だって思い知らされる。愁の力程度じゃ…ね…」

「?」

「この敷地内で力を持つ順序として、祖父・父・俺…で、愁には縛り付けれる権限はないって事」

「…何の事ですか?」


権力の事?そう思ったけど…それが私に何の関係があるのだろうか。


「血の事だよ。愁は月村の正当な血じゃないんだよね」


冷めた口調。

私には関係のない事だけど…気になる。でも、聞いて良いのか葛藤してしまう。


そんな私を見て、蓮先輩は手を掴んだ。

腕を引かれ連行される。驚きながらも抵抗は出来ない。


蓮先輩は近くの空教室に入ると、扉の鍵を閉めた。その行動に警戒する。

だって…誰もいない教室に2人きりで…鍵をかけられるって…これ程怖い事ない。

手を離されると、私は蓮先輩から距離をとった。いつでも逃げだせるように。


「何ですか?急に連れ込むのって…」

「キミに愁の話をしようかと思って」


蓮先輩は、窓際に進みカーテンまでも閉めた。


「密室にする理由は何ですか?」

「そんなの、誰にも見られたくないからに決まっているだろ?」


危険度90%

まさかとは思うけど…そんな事ないと信じるしかない。


「愁先輩の話って…私には関係ない事ですよね?」

「…どうかな?」


さっきから濁されているような気がした。それでも会話は続ける。


「愁は…正当な月村の人間じゃない。愁は…父の愛人の子だからね」


愛人…って浮気でデキた子供…って事?


「だから一族からすると、力のある存在じゃない」

「それだけですか?そんな話の為に…連れて来られたんですか?」


バカらしかった。

だって、本当に私には関係のない話。それを聞かされる為だけにココにいる。


「キミは愁に相応しくない」

「相応しくないって…私、愁先輩とはただの知り合いでしかないですけど?」


段々、イラつきを感じた。


「強気だね…。嫌いじゃないよ、そういう女」

「!!」


身の危険を感じた。後ずさり、逃げようと踵を返す。

だけど…蓮先輩の方が行動が早く、背後から覆いかぶさられ動きを封じられる。


「放して!」


(兄弟そろって、手が早すぎだ!!)

そう思う冷静な自分がいた。


「知らないだろう?」


蓮先輩がジッと私を見てきた。その瞳の色が紫色に変化する。


「!?」


蓮先輩の顔が近付いてくる。頬にキスをされ…そのまま移動する唇。

その唇が…私の首筋に移動した。

スルリと制服のリボンが解かれ、第一ボタンを外された。


「な…何しようと…してるんですか?」


声が上ずる。

(怖い…)

ドクンドクンと心臓の音が脳に響く。


「本能の…ままだけど?」

「や…」









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