第4話 月村一族

「愁…気付いているんだろ?」

「…そう…なんですか?」


2人のやり取りがわからず、呆然と見つめる。


「必ず…そうなる」

「…」

「ただ…決めるのは彼女だけどね」

「…はい…」


ヒソヒソと話す2人をよそに、私は他の2人の様子を見ていた。

気のせいか、私を見てやっぱりヒソヒソと話す。

(一体、何なの?)

怪訝に私は愁先輩を見た。


「あの…」


愁先輩は私と目が合うと、優しく笑いかけてきた。


「菜月…父の愛人になる?」

「愁先輩まで、何言ってるんですか?」

「ははは」


実はこの時、愁先輩が半分以上本気で言っているなんて思ってもいなかった。



*****



次の日…不思議と私を見つめてくる視線が多かった。


「私、どこか変?」


同じクラスで、同じ寮生の新しい友達…優希ゆうきに質問してみる。


「どこも?何で?」

「う~ん…気のせいかなぁ?視線を感じる気がするんだよね…」

「そう?」


優希には感じていないらしい視線。でも…。


「菜月」


校門をくぐると、愁先輩が私に声をかけてきてくれた。


「愁先輩!おはようございます」


まさか朝から会えるとは思わなかったので、気分が少し持ち上がる。


「え?月村先輩?」


一緒にいた優希が驚き、そして照れる。


「おはよう」


愁先輩は、挨拶をすると周囲を見渡した。


「注目されてるね」

「きっと、先輩が私達に話しかけてるからですよ」


理事長の孫が一般生徒に声をかけてたら、注目されるでしょ?しかも新入生。


「いや。菜月のせいだよ」

「え?」

「コチラを見ている人の大半は…月村の一族だね」

「…一族?」

「血縁者」


私は周囲を見渡した。この学園って…血縁者が多いんだ…。


「遠縁だけど…一族だ」

「そう…なんですか…」


優希も私同様に驚き、周囲を見渡す。

愁先輩はマジマジと私の事を見つめてきた。その視線に私は顔が熱くなる。


「多分、これで…大半の者は手を引くと思うんだが…」

「?」


愁先輩は呟くと、一つ溜息を吐き…その流れのまま、私の顔を引き寄せキスをした。


突然のキスに驚き、固まる。


軽く触れたキスは、次に触れると長いものになった。私は我に返り、愁先輩の腕の中で暴れた。


「んっ…」


先輩は暴れる私を力強く抱きしめ、深いキスに変えてきた。深く絡まってくるキスは私の抵抗を打ち消していく。


優しくて、甘い…官能的なキス。体中の力を奪っていく。


キスが終わった時には、私は愁先輩に体を預ける感じにもたれ掛っていた。初めてのキスだった。


「菜月、可愛い」


耳元で囁く愁先輩。恥ずかしくて真っ赤になる。


「何で…こんな事…」

「それは、周囲の注目する奴らに知らしめる為だよ」

「何をですか?」


愁先輩は、真剣な眼差しで私を見つめ、そして微笑む。


「菜月は俺の女だって」

「え?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る