第29話 悪あがき

私は慌てて蓮先輩の腕の中から這い出そうとした。でも…強くて抜け出せない。


「止めてください!!」


片手だけでもがく私の両腕を掴み動きを封じ、もう片方の手で衣類を器用に脱がせにかかる。抵抗してるのも全く影響なく進む。

そして露わにされた裸体を、蓮先輩はマジマジと見つめてくる。


「確かにそれなりに、美しい体をしているな」

「やっ!!」


蓮先輩は自分のネクタイで私の腕を後ろで結ぶ。完全に動けない私を確認すると胸に顔を埋めてきた。


「!!!」


体のラインをゾワリと舌が這っていく。


「ヤメテっ!いやっ!!」


震える体。嫌悪感で吐き気がする。


「愁先輩!!愁先輩!!助けて!」

「無駄だよ。聞こえるはずがない」

「あっ!!やっあっ!」


嫌なのに体は反応してしまう。容赦なく進行され、冷たい指が問答無用に私を掻き乱す。


「へぇ~。キミって快楽を感じると匂い強くなるんだね。つまりもっと美味って事かな?」

「蓮先輩…性格違って…ませんか?」


(こんな人だったの?)


「違ってないよ。俺、意地悪いんだよ。人の泣き姿とか大好きだしね」


楽しそうに笑う蓮先輩にゾッとした。


「っく!」


相変わらずの容赦ない行動に私は抵抗できずにいた。

一瞬見てしまった瞳はすでに紫色で…吸血鬼としてそこに存在していた事を知る。

そのタイミングでは遅かった。既に金縛りの術中で次の瞬間には少しの抵抗も出来なかった。

私は心の中で叫ぶ。必死に愁先輩に助けを求める。

体が動かなくても、微妙に反応はしてしまうのが悔しい。


「凄いね。好きでもない男に抱かれても、体は反応するんだな。凄い楽しくて興奮する」

「やぁぁぁあっ!やだっ!」


蓮先輩が容赦なく私の中に侵入してくる。愁先輩以外の男性が私の体を自由にするなんて…。

私はボロボロと涙が溢れる。


「助けて!!やめて!!」

「うっ…凄い…最高に甘い匂いだな。これは愁が癖になる気持ちわかるかもな」


(愁先輩!!怖い)

蓮先輩の牙が光って見えた。


「いややややぁああぁぁ!!!!!」


プツン…首筋に刺さる牙に私は気が遠くなる。


「キミの血を全て飲み干して殺してしまえば…愁は長にはならなだろうか?」


意識を保つのがギリギリだった。どれくらいの血を吸われたのだろう。

目の前がチカチカする。そして…気持ち悪い。


「無駄ですよ。私を…殺しても…愁先輩は…長になる。それが…理事長の…願いだから…」

「なるほどね」


蓮先輩は目的が終わると体を離し私から背を向けた。そして自分の身なりを整える。


「キミの血も体も魅力的だけど、キミは俺の好みじゃないんだよね」


何を考えているのだろう。私は朦朧と蓮先輩を見た。ただどこか寂しげな表情だって思えた。


「キミにはわからないかもしれないけど…」


蓮先輩はボソリと呟いた。

私は力無くなんとか起き上がり、剥がされた衣服を手にする。

動くのが辛くて、呼吸が乱れるけど…とりあえず下着だけは身に着けた。


「あのさ…キミ、もしかして…妊娠してるの?」


蓮先輩の言葉に私は驚き、マジマジと見つめる。何で知ってるのだろう…私もさっき知った事を。


「なるほどね」

「どうして?」


蓮先輩はフッと笑う。


「俺は長には興味ないけど【姫】には興味あるんだよ。

オナカの子…女の子だね。しかもかなり上等な血を持っている」

「え?」

「間違いなく愁の子供だ」


ガラッ…保健室の扉が開く音がする。そして足音がコチラに向かってくる。

シャッ…足音の主がカーテンを開く。そこには愁先輩がいた。


「愁…先輩…」


愁先輩は私の姿を見ると、勢いよく蓮先輩に掴みかかった。


「蓮!!菜月に何をした!!?」

「それが年上に対する言葉使いか?」


蓮先輩は動じることなく淡々としている。


「見ての通り、彼女を襲っただけだけど?良いよね、彼女の体。最高だったよ」


蓮先輩の言葉を耳にした愁先輩の瞳は紫色だった。そして蓮先輩の首を掴み絞める。

段々と血色が変わっていく首元と蓮先輩の苦渋の表情。

私は慌てて愁先輩を止める。


「ダメ!!愁先輩!!蓮先輩が死んじゃう!!」



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