第22話 愁~目覚め前~
俺は…これまで淡々と生きてきた…。
物心ついた時、この世にはいくつかの種族が存在するんだって知った。
周囲を取り巻く環境…。
俺の家族は両親と兄、そして祖父とその恋人。
祖母は俺が生まれるより少し前に亡くなったらしい。そして、祖父は何故か父よりも若い。
でも、それは俺の中では当たり前の環境だった。なんせ、俺達は吸血鬼なんだから…。
っていうか小学校に入るまで知らなかったんだ。普通の人間の存在を。
祖父が吸血鬼をまとめる長で、凄い人だと知り…。吸血鬼にも純血と人間との半血の者もいると知った。
父さんがこの先、祖父の後継者になるだろうと言われ…蓮が…その次をいく。
俺は吸血鬼の歴史や生態を学び…自分が純血ではない事を知った。月村の者でありながらも、紛い物。特に必要性はなく、自由でいられる。
気ままだったけど…何か寂しかった。
自分は愛人の子で…自分の母親を知らないという事実が無性に…。
しかも、吸血鬼として目覚めてないから…周囲の目はかなり冷たい。
だったら一層、人間のままで良い。高校卒業したら、月村の家を出て、人間として暮らそうと考えた。
俺は、目覚めてはいないけど…不思議と血の匂いを嗅ぎ分けたりは出来ていた。
処女の女、病弱の人、薬をやっている人…例えるならそんな感じ。
最初は蓮が処女を好んで血を得ている事に対して興味はなかった。吸血鬼は穢れのない血が好きな奴が多いから。
普通の人間の中で一番、良い匂いをしている。
だけど流石に、哀れに思えたんだ。処女なだけで殺されかかるほど血を吸われている彼女たちが。
それは気まぐれで…責任感とかじゃなかった。
何となく、抱いて…それが結果、救いの道になったんだ。
だけど…そうしてると…恋愛がうまく出来なくなるんだよな。夢中になれる相手と出会う事なく…つまらない日々を送っていた。
やっぱり何か、寂しかったんだと思う。
菜月と出会った時、不思議な感覚だった。
初めて嗅ぐ、特殊な血の匂い。
吸いたい欲望じゃなくて、ただ心地良かった。
菜月は他の女子に比べれば平凡な女の子で、派手でもなく…いまどき珍しい素朴さがあった。
存在に自分が穏やかになるのを感じた。
俺は…この女の子…好きだな…って思った。
もっと知り合って近付けたら良いのに…そう。
だから、本当に入学して来た時かなりテンション上がった。
だけど…彼女は特殊だから同族の注目を浴びる。それはつまり、色んな奴らから狙われるという事…。
月村の名前だけでは守りきる事は出来ない。まして、祖父や父…蓮が望めば…余計に。
俺が彼女に出来る事…。
とりあえず、日々を狙われずに済むようにしてあげる事くらいだって思った。一緒にいれば、誰も手を出しては来ないはずだって…。
蓮が彼女の血を吸った時…俺はかなり怒りに満ちていた。
彼女に手を出したこと、そして自分の力のなさに。
俺は菜月を心から欲していた。他に何もいらない。
菜月さえいれば…心が満たされる…愛情で満ち溢れる。
誰にも渡したくない…菜月を手に入れる為なら…。
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