第31話 儀式

そして、その日を迎える。


初めて結ばれた場所の図書館で、私達はその日を迎えることにした。正直、かなり緊張している。


今日で人間でなくなる…。

今日から、吸血鬼の一員として…他の人よりも永い年月を生きていく事になる。


「大丈夫。私には愁先輩とこの子がいてくれるから」


予定していた日付に儀式に及んでいる。それは心の準備の為。


この子がデキた事で体の方は準備が整っている事を確認した。だから、残りの日数は儀式の為の行為をしていない。愁先輩が安定期に入るまで控えようと言ってくれたから。


でも…今日だけは違う。


「っあぁ…ん」


抑えられず漏れた声。

誰もいない図書館は、月の光によって周囲を確認できる程度の暗さだった。

静かな場所に響く2つの吐息、興奮を煽る営みの音。


「っ!!」


急な痛みと同時に、空間が静まる。

身動きとれずに…ただジッとソレが終わるのを待っていた。

体中が熱い…呼吸が荒くなる。


「もう…ダメ…」


力が入らないので抵抗しきれない。目の前が一瞬、暗くなるような気がした。


再び動き出す体が私を快楽に導く。自分の体が溶けて無くなるのではないかと思うほど焦がれていた。


「菜月…愛してる…」


私の目の前で、優しく見つめてくる愁先輩。


「愁先輩…私も…」


私の中で何かが変わるような気がした。血を吸われた時よりも体中が熱い。


何て言ったら良いのだろう。

体に熱が帯びてて、チリチリと痛い。日焼けの時の様な。

そう…このまま皮膚が裂けてしまうんじゃないかって思うほどだった。

これが血の変化なんだ。


「菜月…」


愁先輩は心配そうに私を見つめる。その眼差しの中、私の意識は遠のいていった。

微かに名前を呼ぶ声が聞こえるけど…とても怠くて、眠くて…引き込まれていく。



*****



目が覚めた時、私は状況が把握できずにいた。

心配そうに私の事を覗き込む愁先輩。嬉しそうに私を抱きしめてくる。


「先輩…?」

「このまま…永遠に目を覚まさないんじゃないかって…不安だったよ…」


力強い腕に私は優しく背中を摩る。そして視線だけを動かし周囲を探った。


「ココって…愁先輩の部屋…?」

「ああ」


愁先輩は私から体を離すと、椅子に座りなおした。私はベッドから身を起こす。


「…?」


何だろう…凄く体が重い…これも血の影響?


「私…どれくらい、意識をなくしてたんですか?」


部屋が移動しているなんて、相当長い時間、意識を手放していたのだろうか?


「…1ヶ月…だよ」

「え??」


想定外の返事に、思考が止まる。私の中では2・3時間のつもりだったから。


「あの日から1ヶ月…ずっと意識がなかったんだよ。儀式に失敗したのかと思った…」

「1ヶ月…?」


私…そんなに意識がなかったの?


「とにかく良かったよ」

「心配かけて…ごめんなさい…」


愁先輩は優しく笑いかけてくれた。その笑顔が安心する。


「これで、キミを狙う奴はもういないよ」

「ぅん…」


私の血は吸血鬼に変化したから、誰も狙わない。もう私は【姫】じゃないから。

(そっか…)


「…明後日…任命される事になってる」

「え?」

「明後日からは…俺がこの一族の長になる」


そんなに早いんだ…。高校卒業してからぐらいなんだって思ってた。


「しばらく忙しくなるから…ずっと一緒にはいられないんだ。心細いかもしれないけど…ごめんな」

「仕方ない事だもの…気にしないで下さい」


(そうだよね)

形だけじゃないんだから…色々と引き継いだり学ぶところがあるんだろうな。


「そんなに時間かけないよう努力するから。この1ヶ月で半分は吸収したし」

「凄い…ですね」

「まぁね」


私達は笑った。いつも、こうして笑い合っていたいな…。


「菜月さ…」

「はい?」

「…ありがとうな…」

「?」


急に感謝されてキョトンとなる。


「俺との未来を選んでくれて…俺の事、受け入れてくれて」


優しい温かな眼差しに、私は嬉しくて涙を零す。そして愁先輩の事を力いっぱい抱きしめた。


「私こそ…ありがとうございます」


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