第9話 恋の自覚
どうして…なんだろう…。
よくよく考えてみたら、愁先輩より下級にあたる吸血鬼の面々は愁先輩によって私に近付けない。
でも…蓮先輩や理事長は?
月村の直結の吸血鬼なら…私の血を求める事が出来るんじゃない?なのに…誰も何もしてこない。
今の私は平和に女子高生やっていられている。蓮先輩だって、あの時以来…接触してこない。それが不思議でならない。
****
屋上で1人、考え込んでいる。誰の視線も感じない場所で、ゆっくりと考え込んでみたかったから…私という存在を。
「1人で危険だね」
誰もいないと思っていたのに、そこに現れた人…。
「理事長…さん」
一族の長…一番力を持つ…始祖と呼ばれる存在の人。
「こんにちは、菜月さん」
「こんにちは…」
私はお辞儀をする。仮にも理事長なんだから。
「匂いが強くなってるね?もうすぐ…16になるのかな?」
「…はい」
理事長は「そうか」と呟き私の隣に来た。そして私の事をジッと見つめてきた。
「あの…お聞きしたい事が…」
「何かな?」
私は躊躇いながらも…質問してみる。
「理事長は…私の血に…興味ないんですか?」
真剣だった。
だって、理事長が私を求めれば一発でしょ?誰も手出しできなくなる。
「残念ながら、キミに興味はないよ」
理事長は私から視線を外すと空を見上げた。
「僕は過去に…キミと同じ血を…知っているからね」
「私と…?」
(そうだよね…。私だけじゃないんだよね?)
理事長は始祖、永い時間を生きているんだから…何度も同じ存在と巡り会ってるはず。
(だったら…その人は?)
「その人達は…どうなったんですか?」
「うん?そうだね…色々かな…」
微妙に言葉を濁している気がした。
その理由は…もう少し先に知る事になったのだけど…。
「僕はね…待ってるんだよ…」
「待ってる?何をですか?」
「……後継者…かな…」
理事長は視線を落とした。
「後継者?…必要なんですか?」
理事長はフッと優しく笑った。
「菜月さん、永遠なんて無いよ。僕にだって終わりはあるさ」
終わりが…ある…。
「一族は半減してるんだよ、これでも。それに…純血の者も減った。
本当なら…人間の血に混ざり…そのまま人間になれたらと思っている。だけど…純血もまだ存在する。それを統一するには長が必要なんだ」
「長…」
「だけど…僕の生命もそう永くはない。僕はね、もう200年近く…血を口にしていないんだよ。さすがに…持続が難しくなってきてるんだよね…命のね…」
(どういう…こと?)
私は空気感的に何も言えずに黙った。
なんだか理事長の笑顔が満たされているように見えて…。
「菜月さんは…この先をどうしたい?
キミが望むのなら…下々に手出しできない様にする事は可能だよ」
「え?」
突然の申し出に驚き…戸惑う。
「今は…僕が蓮たちを抑制している。今の愁では彼らの抑える事は不可能だからね。
キミは…望むかい?僕らのうちの誰かに…守られる事を…」
(守られる?本当にそう?)
私は人として扱われないんじゃないだろうか。
(彼らの餌になるだけじゃないの?それなのに…愛してもいない人のもとに留まるの?)
それなら…好きな人と一緒にいたい。
「私は…愁先輩と…一緒にいたいです」
私は愁先輩が…好きなんだ…。真っ先に浮かんだ顔…。
好きな人って考えた時に、愁先輩の笑顔が浮かんだ。
短い期間だけど、一緒に過ごして…確実に特別な人になっていた。
「私…愁先輩が…好きみたいです」
「そう…だろうね」
理事長は面白そうに笑っている。
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