第39話 愛を知りたい
結局のところ父が何故、佐伯君を入学させたのかはわからない。
でも…中には一般の人間に憧れている吸血鬼もいるわけで…そんな人達の助けになる人なんだ。
****
家に帰ると私は部屋に閉じこもっていた。ずっと佐伯君の事を考えていた。
私の前に現れた異性…他の人達とは違う。
「……」
きっと私にとって特別な存在である事は間違いない。だからと言って、簡単に受け入れる事なんかできない。
彼が私と関わって、どう変化するのかなんてわからない事で…正直、怖い。
思わず大きく溜息をつく。そして机の上にある時計を確認した。蓮君との約束。
私は部屋を出て、彼の部屋に向かう。そろそろ蓮君が仕事から戻っている時間だから。
同じ屋敷内だけど、私達家族と離れた別邸。いわゆる同じ敷地なだけ。
私は肌寒い空気の中、渡り廊下を進む。
小さな頃から出入りしていた場所。あの頃とは違う気持ちでの出入り。重い扉が開く…つまりは主がいるという事。室内に入ると、私は扉を施錠する。
そして、蓮君の寝室へと向かった。今朝と同じ場所に戻る私は…小心者。
コンコン…響き渡るノック音。扉が開き、光が漏れる。
当たり前だけど、そこには蓮君がいる。
蓮君は私が部屋に入ると同時に腕を掴み、壁に押し当ててきた。
突然の動作に驚き、言葉を失う。力で蓮君に敵うわけなく、身動きとれない。
「ソラ…何のニオイ?」
「え?」
(ニオイ?私、何もつけていないけど…)
「不愉快な臭いが…微かにする」
不愉快な臭い…それで思い出すのは【騎士】の存在。蓮君は純血の吸血鬼だ。
っていうか…蓮君は佐伯君の事知らないんだ…。父の補佐を仕事としていても、最近は会社の方がメインだから。
つまり【騎士】を受け入れたのは父の独断。蓮君は自分たちを揺るがす存在が敷地内にいるのを知らないってこと。
「私…何もつけてないよ?」
「そう…微かに臭うんだけど…学校で何かあった?」
「…何も…」
正直、わからない。学校でのことを蓮君に報告するべきかは。だって父が何を考えているのかもわからないから。
父は蓮君に佐伯君の存在を話していない。それは何か意図があるのかもしれない。
だから【騎士】の話はしないでおこうと思った。
「んっあ…」
蓮君はそっと私の弱い部分に触れた。ビクンと反応する体。
「これで良い。不愉快な臭い、【姫】の甘い匂いで掻き消えたよ」
【姫】ってなんなんだろう…私は今更そんな事を思う。
【騎士】と呼ばれる存在を知って【姫】という呼び名が理事長の娘だからっていう事じゃないって理解した。
【姫】は特殊な血の持ち主…母の過去。
蓮君に抱えられ、ベッドに移動する。何度も繋がってきたベッド。当たり前の状況。
「蓮君…私の事…好き?」
昔は頻繁に聞いてた言葉だけど…。こういう関係になってからは聞いていなかった。
ただ、まともに返事が返ってきた事なんて一度もない。
愛のある行為だとは思えない。そこに恋愛感情なんて存在を認められないから。
そもそも愛のある行為なんてした事がない。
私が反応するから、興奮を促すために激しく意地悪する。優しさなんて感じた事ない。
動物的な行為にウンザリしてる。
せめて…嘘でも「好きだ」って言ってくれたら…良いのに。
私は…やっぱり、羽ばたきたいって思ってしまう。【吸血鬼】の父と【姫】の母が貫いた愛を…私も感じたい。
それは今の蓮君とでは無理だって思うから…。蓮君とだって向き合わないとダメなんだ。
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