第38話 騎士《ナイト》
呼び出された先は理事長室。
今までに一度だけしか訪れた事がない。そこには何故か母もいた。
「佐伯君、彼らを煽るのは止めてもらいたいな」
「すみません、つい」
どういう知り合い?私は2人をマジマジと見た。
「お父さんと佐伯君、知り合いなの?」
「…佐伯君の入学を許可したのは…父さんだからね」
父は苦笑いをした。
(許可?何それ)
「彼は…【姫】を守る【騎士】ってところかな?」
「ナイト?」
「別名【吸血鬼ハンター】」
(ハンター…?って、吸血鬼を狩るって事だよね…?)
「それって、敵…だよね?」
「まぁ、普通ならそうだね」
何?ココの場。敵対する人がいるのに和んでるの?両親ともに警戒してる様子無いし。
「俺は…この学園の監視役として派遣されただけだから」
「監視?」
「そう、この学園は前理事長の時に一度だけ監視下にあっただけで、もう長い間放置されていた。
まぁ、放置していても秩序で守られていたから問題はないんだけどね」
(ちょっと待って…)
っていうか、そもそも…佐伯君って…何者?
「人員に余裕が今はあるから、派遣されたんだけど…。【姫】に会えるなんて光栄だよ」
「あの…【騎士】って何?お父さん、知ってるの?」
「ん?んー…実は初めて会うんだよな…。話には聞いてあったんだが…【騎士】も【姫】と同じように特殊な人間で滅多に存在しない。
【騎士】の血筋が国元にあって、
「俺は、外で生まれたんだけどね。血筋とは関係なく。で、幼い頃から施設で教育されてココまでの実力になった。
本物の【騎士】としての能力を全て持ってるよ」
「話が見えない…」
つまりは、国の監視下に【対・吸血鬼】の養成所がある。それは【騎士】だった人の一族で成り立っていて、そこから吸血鬼の行動を監視している。
佐伯君は一族とは関係なく、外部で誕生した【騎士】の血を持つ者。【騎士】の素質があるから、小さい頃に養成所に入れられた。
【騎士】とは【姫】を守るべき存在。
「でも…?お母さんの時も、お祖母ちゃんの時も…【騎士】はいなかったんでしょ?何で今頃?」
そんな話は聞いていないし!騎士の存在なんて。
「生粋の【騎士】は不在だったけど、訓練された【騎士もどき】はいたよ。ただ、言ってた通り、前理事長の時に一度現れただけ。
キミのお祖母さん【葵さん】に関しては理事長に一任された。キミのお母さん【菜月さん】に関してもだ。
下手に【騎士もどき】に守られるよりは前理事長の監視下の方が安全だって事でね。実際にはまさかの展開だったらしいけど」
「…」
佐伯君は私をジッと見つめてきた。
いや…見つめないでほしい。恥ずかしいから。
「俺が、ココに現れたのは…キミに会いたかったからだよ。俺が本来、守るべき相手がどんな【姫】なのか知りたかったから、ちょっとした興味心。
仕事に関しては、理事長の力を知ってるから問題を感じてない」
私に…会いたかっただけで、入学してきたって事?何だか…照れてしまう。
「さっきのニオイ…。今は自分の能力をセーブして抑えてるけど…開放すると放出される【血】のニオイってやつ。
吸血鬼にとって【姫】のニオイが美味しそうな甘い匂いというのと同じ。吸血鬼にとって【騎士】は不愉快で敵対する匂いになる。
逆に【姫】は安心感を得る為の心地良い匂いを感じ取れるらしい。まぁ本来は【姫】に匂いは嗅ぎ分けられないのだが…キミは吸血鬼の血も混ざってるからね…」
そんなカラクリだったんだ…。だから、華達には不愉快に感じたのね。
「美空…俺なら、キミを守れるよ?」
(守れるって…何から?)
一瞬過ったのは、蓮君の顔。でも、助けて欲しいわけじゃない。自分がハッキリと断らないのがいけないんだから。曖昧な態度なのがダメなんだってわかってる。
だから助けなんていらない。私に助けなんて必要ない。
私は彼の事をジッと見つめた。意味はない。その姿を目に入れたかったから。
【姫】の私にとって、本来の相手だって事なんだよね?私が佐伯君を好きになる事があるのかな…。
もし、好きになっても…それは当たり前の事なのかな…。それって…私が望む情熱的な恋愛ではないよね…。そうすると、この人も…違うんだ。
どうして父は佐伯君を招き入れたんだろう。だって…同族の仲間からすれば危険な存在なのに。それに…佐伯君だって吸血鬼の中にいたら危険なハズじゃない。例え、訓練されているとしても。
(お互いに警戒し合う同士なのに…)
「【騎士】の能力って何?何ができるっていうの?」
「企業秘密」
ニコリと笑いかけてくる。けど…それに笑い返すつもりはない。不服な返答に私は睨みつけてしまう。
「そんな怖い顔するなよ。冗談だって。別に秘密でもなんでもないし」
私の反応を楽しみたかっただけ?佐伯君は更に楽しそうに笑った。
「美空、彼の能力は…吸血鬼の排除だよ」
代わりに父が話し始めた。大きな溜息をついて。
「純粋な騎士は…吸血鬼に血を吸われることはない。同族の血を吸うのと同じ…彼らの血も毒だから。血を浴びる事だって危険だからね」
「どうして?」
どうして血を浴びるのも危険なの?そんなに強烈な血を持つの?
「彼らの血は【聖水】と同じだよ。吸血鬼の身で触れれば…熱を感じ溶け蒸発してしまうと言われている。
吸ってしまえば…血が中和され一滴でさえ、吸血鬼でなくなってしまう。
つまり…美空…。望めば…人間として生きていけるという事だよ」
「人間…一般人と…して?」
そんな事が…佐伯君には出来るんだ…。かなり驚いた。
でも、正直、今のところそれは望んでいない。不自由な思いをしているワケじゃないし。
とにかく、彼が特殊な存在だって事は理解した。
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