第37話 入学式

そして入学式が始まる。


今年の外部入学生は50人程度。

式の間だけ、在学生と新入生と違う並びになっているから…どの人が同じクラスの人なのかはわからない。男子30人女子20人ぐらいだろうか。

品定めをするわけじゃないけど、つい目がいってしまう。同じ年齢なはずなのに初々しい。何だか羨ましい。


そしてこの後の自分が行う立ち振る舞いが嫌で仕方がない。

女子は良いんだ…問題は男子。

私の中の掟は、仲良くなってはいけない。要件以外は言葉を交わしてはならない。

つまりは無視を続け、女王様を気取らないといけないんだ。


「華…憂鬱なんですけど…」

「ご愁傷様としか言えないわ」


理由を知っているから、苦笑いをされる。そうだよね、そういう反応しかできないよね?


無意識で再び新入生を見る。すると1人の男子と目が合ってしまった。

警戒していなかった為?不覚にもドキッとしてしまった。

15歳…幼いけど大人に成長する過程。いままで蓮君ばかり見てきたから、子供っぽさが目についてしまうけど…不思議と惹かれる。

多分、爽やかなんだと思う。彼は目が合った私に、微笑みかけてきた。それがまた、無邪気で可愛い。純粋って言葉が似合いそうな人だ。

私なんかが交流をもってはダメな人。私は心から祈った。


(同じクラスにはなりませんように)

ひたすら願う。


「さっき、目が合ったよね?」


教室に入って1人の男子…さっきの男子が声をかけてきた。願うだけ無駄って何度思った事だろう。


「俺、佐伯さえき大地だいちって名前だけど、キミはなんて名前?」


人懐っこくてニコニコと話しかけてくる。知らないって怖い。

周囲の人達が私達を見てくる。主に同族の男子…彼の事睨みつけていますけど…。


私は一瞬だけ彼と目を合わせて、すぐにそっぽを向いた。必死に話しかけるなオーラを出して。


察してくれた華が、彼に話しかけた。


「えっと、佐伯君だっけ?私は水無月みなづきはなです、よろしく」

「あ、どうも」


突然、華に声をかけられても愛想よく笑顔を返す。いや…普通か。


「彼女、月村美空っていうの。えっと…理事長の娘なんだけど…知らない?」

「え?キミが?」


佐伯君は驚き、私の事をマジマジと見てくる。

(わかったなら、気安く話しかけないで。命…狙われる可能性…低い方が良いんだから)

私を知らないって事は、同族ではないって事。同族じゃないのなら…血を狙われる可能性もあるって事。

一般人に手を出してはいけない。でも、血を摂取してはいけないワケじゃない。殺すつもりなくても、ギリギリまで摂取されてしまえば…人間は生死をさ迷う。

それを狙う吸血鬼だって中にはいる。例え父の監視下にあっても…。

だから、私に関わってはダメ。蓮くんに知られたら…必ず不幸な事になる。蓮くんは容赦ないから。


「姫なんだよな?確か」

「!」


興味津々に質問してくる彼。

(私の事…知ってる?)

理事長の娘ってそんなに有名なのかしら。


「知り合いに噂を聞いたからさ」


佐伯君は先ほどとは違う意味合いの微笑みを向けてきた。完全に【姫】の私に興味を示している。


「この学園…ほとんどが吸血鬼の一族…なんだよね?一般人は多分、半分も満たないんじゃないかな?」


思わず、固まってしまった。多分、華もだと思う。私達はマジマジと佐伯君を見た。

途中から入ってくる人達が、この学園の事情を知っている事なんて無いに等しい。公表しているワケじゃないから。

この学園にいて、稀に存在を知る人がいるぐらいなのに…。


華が佐伯君に探りを入れる。


「佐伯君のご両親のどちらか…ココの卒業生?」

「違うよ」

「っていうか、何?その子供じみた話。面白いんだけど」

「確かに面白いね」


(怖い…。何だろう…この感じ。危険?)

華がかなり警戒している。そして、かなり注目を浴びている。

(彼は違う。同族じゃない)

それは匂いでわかるから…。でも…他の人間とも少し匂いが違う…。


多分、皆、その匂いを今感じているハズ。少し前までは感じなかった匂い。多分、佐伯君が自分の意思で発しているんだ。

でも、皆、それが何なのかわからない。


「なるほどね…。ココは本当に平和なんだな」

「…っ」


華が気持ち悪そうに青ざめて座り込む。


「華?どうしたの?」


私は慌てて、華に駆け寄る。


「急に…不愉快な臭いがした…気持ち悪い…」


(え?)

周囲を見渡すと、同じような反応をして倒れ込んでいる生徒が数人いる。倒れてる人達の共通点…それは…。


「ふ~ん?水無月さんは純血なんだね」

「!!」


そう、共通点、それは純血の吸血鬼。

(何?何が起きてる?)

確かに何か匂いを感じたけど…私には不愉快なモノじゃなかった。

純血の人達は倒れ込み、半血の人達は不愉快そうに口元を押さえる。


(じゃあ…どうして私は?)


「どういう事?何したの?」

「別に何もしてないよ」

「何もしてない事ないでしょ?」


私は彼を睨みつけた。


「本当に、誓って何もしていないから。ただ…何もしなかっただけ…ってだけで」


意味がわからない。周囲がザワつくと同時に教室に現れた人がいた。見なくてもわかる。きっと気になって様子を見に来たに違いない。


「佐伯君、それと美空…少し、良いかな」


視線の先にいるのは…父。


「あ、理事長。おはようございます」


爽やかな笑顔で父に挨拶をする佐伯君。既に面識ありって事か…。









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