第40話 企み

私は私らしく。


入学式のあった週末、私は髪の毛をバッサリと切った。今までは蓮君好みの髪の長い状態だったけど…母と同じような髪型だったけど…スッキリしたくて顎のラインまで切ってしまった。


私は自分を隠さない。普通の女の子でありたいんだ。


理事長の娘だからって関係なく、お嬢様ぶる事もなく接したい。蓮君を恐れて、男子と話さないなんて…もうやめる。


私は深呼吸して教室に踏み込んだ。


「おはよ」


クラスに入ると全員に聞こえるように挨拶をする。普段は席の近くの人にしか挨拶をしなかったのに。注目される中、自分の席に進む。


(これはかなり緊張する)


「美空~おはよ」


華が私に向かって進んできた。


「おはよ、華」


私はニコリと笑顔を向ける。


「どうしたの?髪の毛バッサリ」

「ん?気分転換なんだけど…変?」


似合っていない?ちょっと不安になる。


「凄い、似合ってると思うけど?俺は」


すると背後から佐伯君が声をかけてきた。私は佐伯君の姿を確認すると、ニコリと微笑む。


「おはよう、佐伯君。ありがとう」


似合ってると言ってくれた事にお礼を言う。これは私の素直な気持ち。


「メチャクチャ、俺の好み」

「佐伯君の好みは、どうでも良いけどね」


普通に話をする私達を怪訝な目で見てくる華。そうだよね…だって、華には敵だ。正体を明かしてはいないけど…感じ取っているハズ。


でも、佐伯君は華達に危害は加えない。華達が、佐伯君に危害を加えない限りは。


「美空…どうしたの?」

「ん?えっとね…ちょっとした反抗心?」

「それって…蓮さんに?」

「そう」


私は笑って頷いた。怒るなら怒れば良い。

私が欲しいのなら、欲しいって言葉にしないのが悪い。全部、蓮君が悪いんだ。


「佐伯君にお願いがあるんだ」

「何?」


私のお願いという言葉に首を傾げる。それは突然、お願いと言われればね。

私は佐伯君の腕を引き、教室をいったん出た。できれば誰にも聞かれたくはないから。


「アナタの言葉が本当なら…私を守って。私を…蓮君から…守って」


最初は否定してたけど、今はそれをお願いする。それは…多分、微妙に違った意味だけど。


「蓮君って…キミのイトコの?」

「そう」


私は自分たちの関係を全て、佐伯君に話した。これまでの事を。


「私…蓮君の事、嫌いじゃないよ。そういうコトをする事にも抵抗は特には感じていないんだけど…だけど今の状況は嫌なんだ。

するなら、ちゃんとそこに愛情が欲しいし…って一方的なモノじゃなくて…お互いを尊重し合うっていうか。私の事をもっと考えて欲しいっていうか…。私、ちゃんと向き合いたいし…恋愛したいの」


愛情だって思うんだけど…自信はない。ちゃんと言葉にしてほしい。それだけで、私だって変化すると思えるから。


「その為には、支配されている関係じゃダメだって思うのね。でも…私は、蓮君に抵抗できない。力じゃ敵わないから…」

「……お互いに両想いなんだろ?だったら良いんじゃない?」


面白くなさそうに淡々と言う佐伯君。

わかってる…私の事情を押し付けてるのは。

でも…。


「嫌なの。この先に、蓮君と一緒になる選択肢だとしても…縛り付けられて、自分を押し殺して、他の人と交流をもてないのは…。

私、男女問わずに色んな人と色んな話とかをしたいんだよね…。

それに…もしかすると、他に将来の相手がいるかもしれないじゃない?」


必死に訴える私に、佐伯君は優しく笑いかけてきた。


「それが、素の美空なんだな…」

「え?」

「大人びてると思ったけど…本当はまだ俺らと同じ年齢だなって思った」


それって…どういう意味?私、老けてた?


「要は…蓮さんの嫉妬からくる行為を受けない様に庇ってくれって事だよな?他の男子とも交流を持ちたいから。

でも、彼の無責任な行為から自分自身では逃げられないからと…無理でしょ。

おたくら、同じ敷地内に暮らしてんだろ?土俵が違い過ぎる。家の中まで、ガードできるわけないじゃん」


わかってるよ。家の中では、私は無防備だって。外では佐伯君が守ってくれたとしても、家では無理だって。


「お父さん、私と蓮君の肉体関係までは知らないの。恋愛関係じゃないから。

ねぇ佐伯君…薄々感じていない?お父さんなの企み」

「…」


その無言は、肯定だよね?多分、父は私と佐伯君を結び付けたいって思っている。

多分だけど…父は私を【月村】のしがらみから解放したいんだ。

佐伯君は私を人間にする事もできるから…。


「気付いてたんだ?父親の考えに」

「何となく…そう思っただけだよ」


ほらね、やっぱり…知ってた。きっとそれ以上だよね。


「佐伯君は…私の…婚約者になるんでしょ?時期がきたら、そう公表される予定…じゃない?ねぇ、教えてよ。父と…どういう話になってるの?」


佐伯君は困ったように肩をすくめた。でも…私は知りたいんだ。


「別に…キミの父親は…キミに自由な恋愛を望んでるだけだよ。

俺は可能性であって、婚約者ではない。ただ…その可能性に期待は持たれている部分はあるんだけど…」

「それだけ?」

「それは、キミが直接父親に質問してみたら?

俺は…これ以上話せることはないよ」


直感的にまだありそうな気がするんだけど…。それは追々で良いのかな…でも…。



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