第47話 対峙
「…初めまして…月村蓮さん」
大地は冷やかに微笑んだ。それを蓮君は受け流す。
「…初めまして…【騎士】さん。実際にお会いできるとは思わなかったよ」
淡々と話す蓮君。蓮君も【騎士】の存在を知っていたんだ。…って当たり前か。
「美空、服着て」
大地は蓮君を無視して私に声をかけてきた。
私は頷き、衣類を身にまとう。さすがに裸のままは嫌だ。
「目的を果たすまで、ソラに触れられないのは男として拷問だろうね」
フッと意地悪な笑いを見せる蓮君。
「だからって、人の邪魔をするのはどうかな?」
「無理強いするのも、どうかと思いますけど?」
(何?)
この会話に引っ掛かりを感じた。大地にはまだ秘密があるの?私は交互に2人を見る。
「言っておくけど、ソラを人間にするつもりはない。ソラは生まれる前から俺の花嫁になると決まっているんだ」
「それは、美空が決める事だと思いますけど?」
ドクン、ドクンと脈が激しい。この場にいたくない。重い空気に押しつぶされてしまいそうだ。
この先の展開を意識したくなかった。
きっと…全てがハッピーエンドで終わるような結果じゃないハズ。
この2人は火と油…そういう関係だと思う。
父はどうして…大地に委ねたんだろう。
父が蓮君に一言ビシッと言えば良いだけの話じゃないんだろうか。
私は、おもわず大地の腕にしがみ付いた。
「蓮君、私…自由な恋愛がしたい!!
蓮君の愛情は感じてるけど、縛りつけられたり無理強いばかりされると…私は蓮君に愛情を抱けないよ!!これ以上…無理だよ…。
このままだと、嫌いになってしまう…」
初めて、自分の気持ちを蓮君に伝えたような気がする。今まで怖くて言えなかったから。
「ソラの気持ちなんて必要ない。必要なのはソラの存在だから」
蓮君は冷たい表情で私を見た。今までにない冷やかな表情。
「蓮…君…」
(酷い…)
今まで、愛情だと思っていたのは勘違い?強引だけど、私を求めてくれるのは愛情だって思ってた。
私を愛しく思って、必要としているんだって…それは違ったの?
「何で…私が…必要なの?」
何のために存在してるの?体が震える。
これは…怒り?それとも…悲しみ?
「次期族長の為だよ。従順な花嫁と子供を生む女は、族長の娘で【姫】という特殊な血を持つ貴重な存在が面白いだろ?」
「それだけ?その為に…今まで私の事…」
吐きそう。あまりにもショックで…涙も出ない。
自分が愚かに思えた。今まで一体、なんだったんだろうか。
「さぁ、戻っておいで」
蓮君は私の腕を掴んだ。
「やだ…」
私は首を横に振る。戻りたくなんてない。
そんな事を言われて、戻れるわけないじゃない。
「言っただろ。ソラは俺のモノだって」
「違う。私は誰のモノでもない」
強引に引っ張る蓮君に、必死に抵抗する。力では敵わない…わかってる。
「大地、助けて!!」
咄嗟に出た言葉…。
私の言葉を待っていた?大地はフッと面白そうに笑った。見間違えじゃない。
大地は私を掴む蓮君の手を掴んだ。
「【姫】からの指令なんで…申し訳ないね」
(指令?)
その瞬間、大地の腕から出たのは…あの蒼白い炎。吸血鬼を灰に変えてしまう【聖なる炎】だ。
咄嗟に蓮君は大地の腕を振り払う。
私は慌てて、大地にしがみ付き止める。
「ダメ、やめて!!炎はダメ!それを望んだわけじゃない!!」
必死だった。最低な蓮君だけど、死なんて望んでいない。
大地の炎は、蓮君を消してしまう。私はそこまでを望んでいるわけじゃない。
「やめて…殺さないで…。蓮君、もう…自分の部屋に戻って…」
苦しい。呼吸が…できない。さすがに涙が溢れてきた。
(もう…嫌だ…)
普通の女の子に…普通の家庭に生まれたかった…。
「大地…部屋に…戻ろう…」
この場を離れようとしない蓮君。だったら、こちらが去るしかない。
きっと…蓮君は、応戦するつもりだったと思う。そういう男だ。
私は大地の腕を引いて、部屋に戻る廊下に出た。
(この先を…考えなきゃ…早急に)
じゃないと…どちらかの死が待っているかもしれない。
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