第46話 恐怖

今までは蓮君の事が怖かった。私を縛りつけて…自由を奪うから。

でも…大地は…私を更に自由に出来てしまう。心に思えば、消し去ることが可能だもの。


学園の吸血鬼は大地を恐れて生活する事になるんだ。


「大地が…怖い…」

「普通なら…そう思うだろうね。だけど美空は【姫】だろ?」

「どういう意味?」


大地は私を見て複雑そうに笑った。


「【吸血鬼】は人間を仲間に引き込む。【騎士】は【吸血鬼】を人間にする事が可能。【姫】は【姫】としての資格を失い【騎士】を【騎士】としての役目を終わらせる事ができる。

美空が…俺の事を迷いなく愛し、俺が美空の事を同じように迷いなく愛した時【相思相愛】で結ばれれば…お互いに役目が終わるって事。

まぁ、今の美空には無理だろうけど」

(相思…相愛?)

「大地だって、そこまで至ってないでしょ?」

「…確かに、興味はあるけど…愛かって聞かれると違うね」


ほら、難しいんだよ簡単じゃない。この先を…この先の事を、色々と考えないと…将来の事に関わるんだ。


「俺はさ…美空を開放したい。ずっと、そう思って…ここまで生きてきた。それが【騎士】として本望だから」


首を横に振る。

(違う…)


「私の望みは…違う。私は…そういうの関係なしに…自由な恋愛をしたいの。

心から愛し合う関係を築きたい。だから、そんな使命は持たないで…」


複雑な心。普通の女の子が羨ましい。

せっかく楽しいデートだったハズなのに…気持ちは落ち込んでしまったよ。

(これが私の運命なのかな…)

チッポケな自分…そう思ってた。私なんて何も取り柄もない平凡な女の子。本当にそうなんだけど。

…ただ【姫】という名に囚われている。他の女子と何が違うって、何も変わらない。

それが【姫】という事だけで周囲が騒ぐ。



****


家に帰ると私はお風呂に入った。考え事をしたくて…唯一1人になれる場所だから。


「大地を…愛す…」



ふと思い出す。


【姫】の資格って…何だろう。美味しい血のほかに、何か特殊なものがあるのだろうか?

私が大地を愛して大地が私を愛すると…どうしてお互いに資格が消えるんだろうか。


鏡に写る自分の姿をジッと見つめる。

時々変化する瞳の色。普段は茶色なのに…ふとした瞬間に紫色になる。

私はまだ血に目覚めてはいない。だから吸血鬼の遺伝子なだけで吸血鬼にはなりきれていない。

いつか…誰かの血を吸う時がくるのだろうか…。


ボンヤリと考え込みながら鏡に再び視線を戻す。そして…鏡に写る、もう一つの姿に気付いた。驚き、振り返る。


「っ!!」


私は強引に引き寄せられると、横壁に押し付けられた。私の視界に写るその人は。


「蓮…く…ん…」


蓮君の唇が私の唇を塞ぐ。激しく貪るようなキス。体が無意識に抵抗を止めるのは身についた習慣というもの。


蓮君は何も言わず乱暴に私を扱う。

(…怒ってる?…当たり前か…)

蓮君の指が私を貫く。激しく中を掻き回すその動きに愛情は感じられない。

ただ、愛情は無くても…悔しい事に体は快楽を感じてしまうのだ。

その攻撃的な快楽の痺れが怖くて堪らない。この先が怖くて堪らない。


「蓮…くん…ごめん…なさい…」


きっと…この先に待つのはお仕置き。静かな怒りは前兆。


「何を謝ってるんだ?」

「だって…怒ってる…」


立っていられなくなるほどの刺激で、呼吸は乱れる。きっと…また…不安な時間を過ごすことになるんだ。


諦めそうになった瞬間だった。


「美空!?」


浴室の外…つまり脱衣所で私に呼びかける声。


「大地…」


ハッとした。私は蓮君の手を押しのける。

違う…この流れを作ってはダメなんだ。


「開けるよ?」


扉が開いた瞬間、私は大地の方に駆け寄る。そして胸に飛び込んだ。


「み…そら」

「ふっ…」


思わず涙が零れる。これは…安心感?


そして大地は蓮君の姿を確認した。


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