第45話 騎士の能力

そして放課後。

一度家に帰るとお互いに着替えを済ませ、一緒に部屋を出る。


同じ家から出かけるのも不思議なんだけど…こうしているのが不思議でたまらない。

大地が入学して来て、かなり警戒していたハズなのに数日で私はかなり心を許している。

ただ彼の実力は知らないから、守ってくれると言われても不安は正直ぬぐえない。


「大丈夫だから」


私の心境を察しているのか…大地は言葉をかけてくれる。


「俺がいる」



****


私は、結構早い段階で大地の実力を知る事になった。領域の外にも吸血鬼はいる。

そして、外部の吸血鬼までは父の傘下にない。つまりは…私の存在を知らないんだ。

きっと古い人達は知っているかもしれない。でも、同じくらいの年代の吸血鬼が知っているとは思えない。


「私の匂いって…どっちが強いの?」


聞かずにはいられない。だって…やはり不安だから。


「まぁ、きっと【姫】だろうな」


出かけて、それなりに楽しんで帰ろうとした矢先の出来事だった。

男数人に囲まれたのは人気のない公園。バスまでの時間つぶしで寄っただけだったんだけど。


彼らは確実に私の血を狙っていた。同族にとって私の血は毒なのに。


「美空…俺のそばにいろよ」


大地が耳打ちをしてきた。

そうは言っても…これって危ないんじゃ。周囲に助けを求めた方が良いのでは…と、思ったけど…それも無理だよね。相手は吸血鬼なんだから。


普通に一般の人に助けを求めても犠牲にしかならない。それなら、私は大地に従うしかないと思った。

女の私じゃダメなんだ。父の様な力を持っているワケじゃないんだから。

それは、人間の女性に比べれば力はあると思うけど…。



「この匂いって何だ?凄い良い匂いを漂わせてる」


男Aが他の仲間に話しかけた。


(匂い…か)


「処女の匂いではないよな」

「美味しそうな匂いだな」


男たちはニヤニヤと笑う。


「やっぱり、男の血より女の方が美味しいだろうな」


私は思わずため息をついてしまった。外の吸血鬼は欲望そのままなんだとそう感じたから。


「お嬢さん、その血をくださいな」



男Aが言葉と同時に動いた。私をめがけて飛びかかってくる。

さすがに私だって一応、吸血鬼。彼らの動きぐらいは見える。

きっと一般女子ならば、その速さの一瞬で羽交い絞めにあっていると思われるけど…私は反射的に避けた。


そして私は驚く。

私に飛びかかって来た男を、大地は一瞬で捕らえた。つまり…男の上をいくスピードを持っているという事で…多分、学園にいる吸血鬼でも敵わないと思われる。


私と同様に男達も驚きを見せた。


「誰だ…おまえ…」


男の1人が大地を威嚇する。だけど…言葉を発した男を見る大地の瞳が…冷ややかだった。


(見下している?)

そう表現するのが合っているかもしれない。


「吸血鬼ってさ…人間の血を飲んで…飲み干して殺すだろ?じゃあさ…その吸血鬼を仕留める方法って何だと思う?」


私達には太陽なんて関係ない。もちろん十字架だって大丈夫だし、ニンニクも関係ない。

実際に聖水って物を目にした事ないから、わからないけど…多分、それも平気だと思う。


(でも…確か【騎士】の血は吸血鬼にとって毒だって話だったけど…いちいち血を出さないとダメなの?)


「【騎士】ってさ…吸血鬼を仕留める為に変化してきたんだって。ある意味、人間とは程遠いと思わないか?」


「だ…いち?」



男を掴んでいた手が瞬間的に発火した。蒼白い炎。


「うわぁっ!!あぁあぁぁっ!!」



男はあっという間に炎に包まれた。そして…徐々に灰になっていく。


初めて見る光景。

(何…今の…)


「おまえ…まさか…【騎士】なのか…」


震える声で凝視してくる残された男達。


「そうだけど?」


大地の返事を聞くと、慌ててその場から逃げ出す。


「どういう事?」


私は驚きから立ち竦んだ。だって…吸血鬼の男が…蒼い炎に包まれて灰に…あっという間に灰になった。


「これが…【騎士】の【吸血鬼ハンター】の能力だよ。【聖なる炎】と言われてる。

自在にコレを操れると一人前の【騎士】と言われる」


かなり動揺した。そんな存在がいたなんて…。

本当に吸血鬼にとっての敵なんだ。


「大地は…私をどうしたいの?」


私は吸血鬼でもある。

そして【姫】でも。




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