第44話 夜明け

「美空…」


私を心配そうに覗き込むのは…


「大地…」


先ほど見たのは夢。私はホッとした。


「泣いてる。どうした?怖い夢でも見た?」

「うん…」


心地良く寝たはずなのに…怖い夢を見るなんて。私は相当…蓮君を恐れている。


「もう朝だよ…このまま起きる?」


大地の言葉に私は窓の外を見た。確かに明るい。結局、蓮君が私の部屋に訪れる事はなかった。それが逆に怒りを増幅させているのでは…そう思ってしまう。


「うん、起きるよ」

「そ、じゃあ、おはよ」


大地は優しく微笑み私の頬に触れる。その仕草が恥ずかしい。


「こうして一緒のベッドで起きるのってさ…まるで新婚っぽく感じないか?」

「え?」

「凄い、新鮮」


嬉しそうにする大地が初々しい。

あぁ…私は擦れているんだ。もう純粋じゃないんだなって思った。


「大地はさ…一夜を共にした事ある女性はいないの?」

「それって、俺が童貞かって聞いてる?」

「そんな事を聞いてるわけじゃ…」


そういう質問になってしまうの?そういう意味で聞いたんじゃないのに。


「俺らさ、今こうして一緒の空間で過ごしてるけど…実際はまだ16歳だぞ?普通に考えれば泊まりとか難しくないか?」

「そう…なの?」


私には一般論がわからない。まともな恋愛なんてしていないから。蓮君だから夜通しも可能なの?


「これだけは言っておくけど、俺も…一応は、経験者。だけどそんなに濃い関係ではなかったから、一夜を共に…っていうのはない。

こうして一緒に朝を迎えた女は美空だけ…って言っても、俺ら何もしてないけどね」

「そう」


そうなんだ…思わず「純粋だね」って出そうになった。やっぱり私は穢れてる。


「でもさ、結構俺、頑張ったよ」

「?」

「やっぱり俺は健全なんだって実感した」


何を言いたいんだ?私は首を傾げる。


「紳士的に手を出さない努力をしたって事だよ」

「それは…ご苦労様でした…」


私は苦笑いをした。だって…ねぇ。

同じように大地も苦笑いになっていたけど。



****


制服に着替えて、朝食に向かう。


「美空」


大地は私の手を取り、恋人繋ぎをしてきた。優しい手の温もり。思わず照れてしまう。

私にとっても大地の存在は新鮮なんだ。


「今日さ、一緒に出かけないか?美空はしばらく敷地から出てないんだろ?」

「え?」

「一緒に駅前に買い物行かないか?」


凄く魅力的な言葉。

確かに、蓮君と男女の関係になってからは外に出かけていない。それは蓮君の束縛があったから。他の男の人との出会いを減らす為。


「デートしよう」

「…デートはしない。でも…お出かけに付き合うのは…良いよ?」


今となっては、もう同じ。大地を受け入れて、蓮君のもとに行かなかった昨夜。すでにもう怒りはかっているハズ。だったら、外に出ても同じだよ。

それに、やっぱり久しぶりに外に出かけたい。


「じゃあ、出かけよう。たださ、俺のそばから離れないようにな」

「え?う、うん」


この時、大地の言葉の意味がわからなかった。

そして、このやり取りを蓮君が見ていた事も。



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