第43話 悪夢

私の選択肢って…蓮君と結婚して…父の後継者になるか、大地と結婚して…守られ続けるか…しかない?でも…もしかしたら…。


「もしかして、私も…人間に…なれるの?」

「ん?ああ、なれるよ」


人間になって…他の誰かと…って選択肢?


「ただ【姫】の血は残る。つまりは…吸血鬼達に狙われる可能性が高くなる」

「…それって…さ…そうなると私には二択しかないって事だよね」

「そんな事…ないさ」


(どういう事?)


大地は苦笑いで誤魔化す。何を企んでるんだろう。


「そんな事よりさ…」


話を違う話題に持っていくと…空気が変わる。

何でもない話題。きっと普通の人達はこういう話題で盛り上がるんだろうな。


気が付けば既に23時になっていた。


「そろそろ、寝る?」

「うん、そうだね。明日も学校だしね」


そう言うと、何故か大地は私のベッドに転がった。


「何で、そこで寝転がるの?」

「だって一緒に寝るんだろ?何?俺って床に追いやられる系?」

「…イイよ…私がソファーで寝るから」


さすがに一緒のベッドで寝るのは気が引ける。

私は蓮君しか知らない。そういう事に慣れているワケじゃないんだ。


「何?もしかして…エロい事考えてる?」

「そ…そんな事ないし」


自分でもわかる。顔が今、メチャクチャ赤いって事。


「お望みなら、シてあげても良いけど?」

「ひゃっ!」


グイッと腕を引っ張られ、ベッドに押し倒される。凄い、ドキドキしてる。

怖いとかじゃなくて…恥ずかしいドキドキ。


「何もしないから、ココで寝なさい」


ニコリと優しく笑いかけ、額にキスを落とす。

(してるじゃないか…。オデコにキス)

大地は満足そうに、私の隣りで横になる。そして私を優しく包み込んだ。


「おやすみ」

「…オヤスミ…」


正直言えば…ドキドキしすぎて寝れそうもない。ただ…初めて他の男の人の腕の中に納まって…。

(これって…大地だから?)

安心していられる。とても心地よくて…。

(あ…そっか…)


【騎士】は【姫】を心地よくする匂いを発するって言ってた気がする。つまり、今この空間には吸血鬼は近付けない。

純血の蓮君はこのニオイが不愉快で…近付きたくないハズなんだ。


私は大地に寄り添って瞳を閉じた。

安らかで…心地のいい…眠りに落ちていく。



―――――     ―――――


私は真っ暗な学園を走っていた。必死に走って誰かを探す。不安で、苦しい。


(早く見つけないと…彼を止めないと…。)


周囲を確認する事が出来ない。倒れている人たちを見る事が…出来ない。

この惨事を止めるには、突き進むしかないんだ。


「はぁ、はぁ、はぁ」


呼吸が苦しい。足が上手く出せない。もどかしくて仕方がない。


「ダメ…やめて」


涙が止まらない。私は屋上に続く扉を勢いよく開け放つ。


「っく…」


言葉にならない。思わず、その場でへたり込んでしまった。

私はその場で泣きじゃくる。耐えれられない。


(どうして…こんな事になってしまったの?)

「蓮君、どうして…」


私の目の前に立つのは…蓮君。

紫色の瞳で…冷たい瞳で…倒れている人を見つめる。


「ソラ…俺の…ソラ…」


ユックリと視線を動かし、私を捕らえる。口元は血で染まり…指先にも血が染まる。


「どうして、こんな事をしたの?」


周囲に倒れているのは…人。生徒…先生…そして…同族。


「ソラを手に入れる為だよ…」


蓮君の足元に倒れているのは…大地。瀕死状態の大地。


「だ、大地!大地!」


私は慌てて大地のそばに駆け寄る。


「蓮君やめてよ!私…そんな事する蓮君を好きになんてなれない!!」

「ダメだよ…ソラは俺のモノなんだ…」


大地を支える私を、強引に抱き寄せる。あまりもの力で耐えられない。


「大地!!」






―――――     ―――――




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る