第50話 姫と騎士の関係
緊張した。
人を傷つけるのは怖い…しかも、噛みつくなんて。
それでも…私は…全てを終わらせる為にやるしかない。
世界中から吸血鬼がいなくなるわけじゃないけど。吸血鬼が支配する世界はあってはならない。
だから私が…蓮くんを止めるしかない。私の役割だと思う。
私は覚悟を決めて、大地の首に歯をたてた。プチって肌が穴のあく感覚…ゾッとする。
だけど…私の中にはやっぱり吸血鬼の本能があるんだ。知らないはずの吸引を私は無意識にやっていた。
生暖かい血が私の口にひろがる。
大地は顔を一瞬、歪めた。私は少しだけ血を吸うとすぐに口を離した。
「ソラ飲み込め」
口の中には大地の血が含まれている。飲み込めない…ううん…違う。
私はチラリと蓮くんを見た。
そして…。
「ソラ…な…」
勢いよく蓮くんに抱きついて押し倒す。油断してたのか蓮くんは体勢を崩した。
チャンスは見逃さない。
私は蓮くんにキスをした。馬乗りになって。
(ごめんなさい)
私は…蓮くんに…大地の血を流し込んだ。
唇は離さない。吐き出さないために。
蓮くんは勢いよく私を押し退けた。
(大丈夫…少しは摂取したはず。蓮くんは…血の誘惑に弱いんだから)
「ソラ…やって…くれた…な」
蓮くんは顔を歪めた。多分…私と同じ。大地の血が体内に微量だけど入った。
ほんの少しなのに…体が燃えるように熱い。立っていられない。
「っ…ん」
顔を歪める。呼吸が乱れる。
大地が私を抱きしめてくれた。自分も手負いなのに。
(これが…血の変化?)
私の吸血鬼の遺伝子が組み替えられてるのだ。熱くて浄化されているみたい。それが蓮くんにも起きている。
これは…瞬間的に考えついた事で衝動的な結果。
人間になるのが…どうなるのか想像できない。
蓮くんの立場はどうなるんだろうなんて…考えてもいなかった。
私は…大地を見た。
「勇気ある行動だよ」
「嘘…私が衝動的にそうすると思ってたでしょ?だから蓮くんに対抗しなかった…違う?」
大地は絶対に察してた。それがベストなんだって。大地だって…殺しあいなんて望んでいない。
「キミが望む結果だろ?」
平和的な解決。確かにそうだけど…。
「俺から離れるなよ…美空。キミは…吸血鬼じゃなくなった。つまり…」
「私は【姫】でしかない、狙われる存在?」
「ふっ…」
蓮くんが鼻で笑う。座りこんだまま。
「さっさとソラを抱けば?騎士様。オマエの望みだろ?」
「蓮くん?」
(何を言ってるの?)
「【姫】と【騎士】はお互いの能力を相殺できるんだよ。お互い、普通の人に成り下がる。
【騎士】の能力は【姫】に刺激され、姫の中に放たれる。遺伝子となってね。
全てを奪われるんだよ…【騎士】の能力を【姫】に。
そして【姫】はそれを受け止める…必ず。自分を守るものだから。
【姫】は自分の能力を【騎士】に捧げ【騎士】を強化する。自分の体内で。
お互いの能力が相殺される。それは…新たな【騎士】を【姫】が産み落とすからだ。お互いの能力を合わさった子をね」
「え?」
(子供?)
「過去に片手程度しか存在しなかった…最強の【騎士】は…【姫】と【騎士】が愛し合って生まれた子供だ」
(愛し合って生まれた子供…って)
「ソイツがソラに手を出さないのは…出せないからだよ。軽はずみにセックスしたら…確実に子供できるからな。避妊したとこで突破してしまうらしいから、まぁ拷問だったろ」
私は大地を見た。
苦笑いしている。蓮くんの話が本当の事だって証拠だよね。
「…自分の年齢と立場は心得ているからね。そもそも、お互いの心が一致しない限り…美空には手出ししない…そう…出会った時から決めてる」
(出会った時から?)
真剣な表情。そんなことまで考えていたんだ。私は顔が熱くなるのを感じた。
「大地…」
「ちゃんと…【姫】を守る。その時が来ることがあれば…そのときまで」
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