第51話 運命の人

私は解放されたわけじゃない。まだ、血に支配されているから。

運命はまだ私に試練を与える。



****


大地の腕の中が心地良い。完全な【姫】となったから余計に。


いつものように、部屋で一緒に過ごす。

今日は学校に行かない方が良いと言われた。微妙な匂いの変化に、他の吸血鬼も気付くハズだからと。もし、吸血鬼の血を失ったのを知られたら…半数ぐらいは血を狙ってくるだろうと予測された。


蓮君も今日は会社を休んでいる。

人間になってしまったから、負担が大きいらしい。急に体が重くなった感じ。私もそれは同じ。


微妙な変化に体力を奪われ、貧血のようにふらつく。それを大地が支えてくれていた…甘い匂いをさせて。

吸血鬼じゃないのに匂いを感じられるのは、【姫】が【騎士】に依存するから?比べものにならないくらい私を翻弄する。


甘い媚薬。

心地良いを上回り、興奮させられる。ドキドキがおさまらない。大地の腕の中にいると、快楽が巡る。


「大地」

「ん?」

「あのさ、ここ家だし…大丈夫だから」


だから、抱き締めなくても…私は目で訴える。


吸血鬼が【姫】の血に惹かれるのと同じだと思う。血じゃなくて、性を求めてしまう欲求。

私だけ?私だけが変な気分になってしまうのかな?


大地は私を包み込むのをやめた。


「嫌だった?ごめん」

「ちがう、嫌とかじゃない…よ」


私は視線を合わせないようにした。

今、大地の顔は見れない。だって、確実に私…おかしいもの。


「大地は…私の匂い…感じるの?【姫】の匂いっていうの?」

「感じるよ」

「どんな風に?」

「…理性を抑えるのに必死」



あぁ…きっと同じなんだ。そう思った。


過去の【姫】と【騎士】はきっと恋愛なんてしてないんだろうな。

欲求に従うだけ…お互いに同じ欲求なんだもん。恋愛期間なんて必要ない。

出会ってしまえば、もう、離れられない。


だけど…私はそういうわけにはいかない。

時代のせいもあるけど…蓮君の事もあるし。

自分の気持ちもよくわかっていない。


「私、ちょっと蓮君の様子見てくるね」


大地と一緒にいるのがキツイ。必死に自我を保たないといけないから。

信じられない…こんなに欲求不満みたいになるなんて。


「美空」

「ん?」

「…アイツの事を選ぶつもりでいる?」


(選ぶ?それって…伴侶にって事?)


「私は…大地としかダメでしょ?」


蓮君とは無理だと自分の中で思ってる。

私は【姫】であるかぎり吸血鬼たちに狙われる。【姫】である以上、父親に守ってもらうか、大地と一緒にいるしかない。


「美空は俺とじゃ嫌…?」

「結婚?」

「…セックス」

「………」


嫌って聞かれても困る。そんなの、わからない。だって、蓮君の時だって強要だったし。


「これは…一つの例え話なんだけど…。

結婚しなくても良いんだよ?できた子供だけ…生んでくれさえすれば…」

「え?」

「子供は俺が引き取って…育てる。次の【騎士】として。だから…美空を開放するよ。

【姫】からも【吸血鬼】からも。

アイツと人間として生きていく選択肢もある」


(開放?吸血鬼と姫から?)


だけどそれって…ダメだよ。


「自分の子供を捨てるつもりはないよ。私は…私は…」


選択肢なんてない。最初から決まってたんだよ。


「大地と向き合う。私ね、大地の事…嫌いじゃないから…恋愛ができたらって思うよ?」



大地と恋愛して結ばれる運命。嫌じゃないよ。


「大地は私で良いの?」

「俺は…初めて会った日から、美空が欲しいと思ってるよ。

ずっと美空を見てきてて、容姿もだけど、中身も可愛いと思ってる。俺だけの美空になって欲しいのを必死に抑えてる」

「抑えてるの…大変だね」


私は苦笑いした。

だって、今の私はその気持ちわかるから。


「美空」

「?」


大地が私のそばにくる。離れていた距離が再び縮まる。


「好きだよ」

「あ、ありがと…」


ドキドキが激しくなる。真剣な眼差しに、キュンとする。


良いのかな…全てを投げ出したい…愛されたい。


「未来、大地のお嫁さんに…してくれる?」

「幼い頃から待ち焦がれてた女が、美空で良かったと思ってる。美空、俺の花嫁になってくれる?」

「うん」


私、自分の結婚相手は蓮君だって思ってた。実際…蓮君はそのつもりだったし。

でも大地に対する気持ちは蓮君に対するものと違う。

どちらが【恋】かと問われれば、それは間違えなく大地との感覚。

蓮君に幼い頃感じてた感覚に近いもの。それが大地に大きく感じる。


多分、関係性も影響してるかもしれない。

それならそれでいい。それでも愛しいと思えるんだから。














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