第35話 関係性

世の中にはたくさんの吸血鬼が普通に生活していて、仲良く共存しているんだって思っていた。吸血鬼は彼方此方あちらこちらにいて当たり前なんだって。私の生活環境がそうだったから。

でも…本当は違う。

吸血鬼が人間と共存しているのは、ココの領地だけ。共存とは言い難いかもしれない。


族長である父が一族を束ねているから、被害がないだけ。人間に被害が出れば、父によって裁きがあるから。ココの領域は平和なんだ。


桜御台学園は月村の領域。


純血とハーフの吸血鬼、そして人間が通うエスカレーター式の学園。

父は先代から理事長と族長の座を受け継いでいた。だからなのか、一族の全てが私の事を【姫】と呼ぶ。


母も特殊な存在らしく…元々は人間だったのに、父との恋愛でコチラに踏み込んだとか。


この2人は娘の私から見ても、愛し合っているのがわかる。15年…16年の月日が経っても変わらない愛。私もそんな恋愛がしたい。


でも、ココにいる限り私が恋愛できるとは思えない。何ていっても、エスカレーター式で周囲にいる人達は昔馴染み。私の事を知らない人はいない。

同族も一般人も、私は理事長の娘。簡単に手を出してはいけない存在。

高嶺の花?何をするのも一歩距離をとられてしまう。それは生徒も教師も全て。


恋愛なんてできる要素がない。


外部からの受験生なんて一握りで運命の人と出会える可能性は極めて低い…。

何よりも、他の男の人に目を向けるのを許してくれるわけがない。


***


初恋は確かに彼だった。


父よりも1歳年上のイトコで私との年の差18歳。でも吸血鬼に年齢なんて関係ない。


確かに昔は私が幼すぎて、はたから見ると危険な関係に見えたかもしれない。だけど…今となると既にバランスがとれている。


彼は25歳辺りから老いが緩やかになった。純血の吸血鬼は老いを止められる。彼は私の成長を待っていた。


幼い頃から大好きだったイトコ…私の初恋。

だけど…私はそのイトコから距離をおきたいと思ってしまった。


イトコの私への執着、それを身をもって知ったから。理由なんてわからない。

でもイトコ…蓮君は私を束縛する。


蓮君が好き!大人になったら結婚したい!そう思っていた時期もあった。それは所詮、子供の戯言。


成長すれば視野も広がるし、異性というものも意識する。


中学生になった頃から男女交際に憧れた。恋愛というものに。

恋ってドキドキ、ワクワクするもの。ただ、それを蓮君に感じる事はなかったから他の男の子に意識が向き始めた。

恋愛は自由だから…そう思って私は羽ばたこうと思った。


だけど私が羽ばたこうとしたのを知った蓮君は、私を自分に縛り付けたんだ。初めての事で怖かった。


****


夏休みに他校の男子と知り合って、グループで一緒に遊んだだけなのに。連絡先を交換して、交流をもつようになっただけなのに…それさえも許してはくれない。


「ソラは俺の女だって決まってるんだよ」


静かな怒りを感じた。だけど私には意味がわからない。

そんな権利ない、私は私だもの。それなのに何故か逆らえない。


強引な行為に抵抗できない。必死に言葉で制止することしかできなくて、私は受け入れるしかなかった。

思っていたのと違った初体験。


両親を見て育っていたから、いつかは自分も誰かと愛し合って結ばれるんだって思った。


偶然、一度だけ見てしまった両親の営み。普通なら気まずいし、拒否反応が出てしまうのが一般論。

よく聞くのは「親のセックスを見てしまった。キモい、幻滅」という言葉。

だけど私は憧れを抱いてしまった。


だって母は、父に愛されて満たされていた。身を委ねて恍惚な表情をしていて…甘い声を出して…何だかキレイだった。

少女漫画だってそう。愛し合ってたら、その行為は素晴らしいものなんだって思って。

いつか愛してると思える人と交えたいって思ったんだ。


それなのに、恋人でもない蓮君と心のない初体験をしてしまった。

嫌いではない。好きだけど…愛してるじゃない。


何度交わっても、それは愛の行為ではなくてただの性欲処理。そう思ってしまう。


私は愛のあるセックスをしたい。いや…蓮君の愛情は感じてる。でも…私の心がそれに達さないから…いまいち決め手がない。

それは恋愛の経験がないから。


それとも…セックスって誰としてもこんなもの?私が両親みたいな感じなのを望んでるのは高望み?




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