第26話 儀式の方法
『とりあえず、1週間から10日ぐらいで大丈夫だろう』理事長の部屋から出る直前に言われた言葉。私には意味がわからなかった。
****
愁先輩の部屋に戻ると同時に、私は先輩によって強く抱きしめられた。
「何か、色々とゴメンな…」
「何が?」
「一族のゴタゴタに巻き込んじゃってさ」
私は先輩を強く抱きしめ返す。
「巻き込まれた?違うでしょ?私は【姫】っていう部類の当事者ですよ?」
巻き込まれたんじゃない。私は関係者だ。
「菜月、すっごい好き」
愁先輩は耳元で優しく囁くと頬ずりしてきた。
(甘えてるのかなぁ?)
思わず頭を撫でてしまう。
「そういえば儀式って…何をするの?」
「ん?うーん…」
一瞬、発言に躊躇いをみせる愁先輩だった…。
「簡単に言えば…俺の遺伝子を菜月の血に適量混ぜてしまうだけだよ。
吸血行為は…血を吸う以外にも…大昔はそういう事をやっていたらしい。よく聞く、人間を吸血鬼にする物語とかってそういう事だったんだろうね」
「つまり…血を飲む時と同じ作業?」
「まぁね」
私はふと疑問を感じた。
「でも…それだけなら…簡単に、誰でもできちゃうんじゃ?」
誰でも簡単に吸血鬼になれちゃうんじゃ…。
「それだけじゃ…足りないんだよ」
一度体を離すと、先輩は私を椅子に座らせた。そして自分はベッドに腰をかける。
「突然、血の中に吸血鬼の血…遺伝子を投入されると…突然変異で…死亡する確率が高いんだって。
そもそも、一般的の吸血鬼は人間を仲間にするというよりも…餌にすぎないからね…仲間にしようと考える奴は少ないし」
「…えっと…それって…じゃあ、どうするの?」
「つまり、慣らす必要があるって事」
(慣らす?どうやって…だろ)
私は首を傾げた。
「……正直……葛藤するんだよな…」
「?」
「1週間から10日…毎日だって」
愁先輩は複雑そうな表情だった。一体、何を言われたのだろう。
「先輩?」
「…」
躊躇い無言になる。
「言わないと、わかりませんけど?」
私の言葉に頷くけど…相変わらず言葉に詰まっている。
「先輩?」
「わかった…言うから…」
先輩は大きく深い息を吐くと目を伏せた。
「つまり…」
「つまり?」
「…を、しないで…ヤる」
(………今…なんて?)
「え?」
思考回路が一瞬停止した。逆に愁先輩は吹っ切れたようだ。
「最初の4日間は少しだけ…その間特に異常なければ…思いのままに…そう言われた…」
(何だそれは…)
何て返すべきなんだろう?戸惑いが隠せない。
「血ほど強くないから…免疫をつけるのに…最適らしいんだよね。
昔は…仲間にしたい相手は恋人だったりする事が多かったみたいだから…誰も抵抗なく…してきたんだって。
気を急いて免疫も与えず
「…そう…なんですね…」
としか、反応できない。それってだって…。
「妊娠…する確率も…高そうですよね…?」
「かなりね…」
確かに戸惑う。この先に…私はどうなるんだろう。何となくだけど…高校は卒業するつもりでいたからなぁ。
「今すぐ…どうこう…しなくても大丈夫だと…思いたいんだけど…」
「え?」
「2年くらい深いキスでも毎日してれば…遺伝子的に唾液から慣れて来るような気がしないか?っていうか、菜月が高校卒業すれば…いつでも良いというか。
…そこまで気長に過ごせないのかね…」
苦笑いと溜め息…確かにそうなる。いきなり妊娠のリスクが高くなる付き合いを推奨されてしまっているんだもの。
私達はまだ社会にも出てない。これから自分の世界を広げる段階だから。
「まぁ…俺が後継者になれば、菜月には手出し出来なくなるんだから…今は必要ないって思うけど…」
「…先輩…」
私は椅子から立ち上がり、愁先輩の前に進むとそこで立ち竦んだ。
「菜月?」
「もし、私を吸血鬼の仲間にする事だけを気にしているのなら躊躇っちゃダメですよ。これから一族の頂点に立つつもりなら…躊躇いは禁物です。
でも、先輩の人生なんだから…」
真剣に私を見てくる先輩に微笑みかける。
これから先に続く人生なんだもの…今から責任を負わせるのも躊躇う。
「私は…愁先輩のお嫁さんになるって決まってるんですから、そこだけは揺るがないから…」
驚いたり戸惑ったりしても、選ぶ道は迷いたくない。
「私は先輩のタイミングに委ねます」
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