第53話

 炸裂音が中々収まらない。


 不安そうなフレイの手を優しく持つと、彼女は恥ずかしそうに笑った。


「駄目ですね、私の方がずっとお姉さんなのに……」


「何言ってるのさ、ずっと眠ってたんでしょ?なら心の年齢は僕と変わらない位、いや下かも」


「でも、お姉ちゃんです」不貞腐れた様に言うフレイの声に微笑を浮かべつつ、


「いーや、フレイはフレイだよ。年齢なんてどうでも良いし、君は君でいて欲しい……それじゃ駄目かい?」


「ショーリー……そうですね、私はフレイです。弱虫で泣き虫なフレイなんです」


「あぁ、頑張り屋で人の顔をうかがってばかりのフレイだ」


「意気地なしで寂しがりなフレイなんです」


「あぁ、優しくてヒマワリの様な笑顔のフレイだ」


「もうっ」彼女はため息をつくと、


「……ショーリーは誰にでも、そんな事言うのですか?」少し恥ずかしそうに、僕の胸をポカポカと叩く。


「駄目かい?」


「皆が言ってました。ショーリーは誰にでも優しいって」


「そんな、誰にでもって訳じゃ……そんなナンパな風に見られるのかな?」


「ナンパ?遭難?日本語難しい良く分かりません。でも、私はショーリーといると嬉しいです」


「日本語は、難しいね」と僕は軽く笑う。


 その時だった。急に激しく部屋の縦に揺れる音に敵の攻撃と?「フレイッ!!」僕は叫んで、彼女を手元に引き寄せ腰のホルダーから、銃を九ミリ拳銃を抜きとる。


「ショ、ショーリー!?」不安そうな彼女の顔に、僕は静かにと、口元に人差し指を立てる。


「この場に伏せて、少し待ってて!!」部屋のモニターから外の様子を伺う。


 可動式のビデオカメラを手元のコントローラーでゆっくり動かして見ると、そこには灰色の戦人が一機、ほんの傍まで近づいていた。


戦人は、トレーラーを固定して急に発進出来ないようにしている。


 マズい!!なんでこんな近くに!!


「こちら、C3カーゴトレーラー!!敵に接敵されている!!緊急要請だ!!繰り返すこちらC3カーゴトレーラー!!敵に接敵されている!!」


 部屋の無線で、司令官トレーラーに連絡を入れる。

「くっ!!ジャミングか!?」

 無線はノイズにまみれ中々通じない通信に焦る。

 外のモニターを見ると戦人から人が乗降用ワイヤーで二人降りて来ようとしている。


 マズい!!


「フレイは後ろに!!」


「えっ!!エエッ!!」慌てるフレイを少し強引に床に伏せさせると、僕はカーゴトレーラーのドアを開け、体を半身出すと降りていく敵兵士らしい人間に三発、九ミリ拳銃を速射する。


 バンッバンッ!!という炸裂音と共に不意を突かれたであろう一人の兵士が地面に落ち、もう一人がマズいと思ったのか五メートル位の高さから飛び降りる


「non posso crederci!!」撃たれた相手の兵士の叫び?コレは?

「何語だ!?」クセの強い訛り言葉に相手の言語を聞き取れず、多分ヨーロッパ系だと思うがと首を傾げると、

「イタリア語です!!信じられないって!!南部訛りが強いです!!」フレイが伏せながら僕に向かって言う。イタリアなら、やはりEUの兵士か!?


「凄いな!?分かるんだ!?」そう言うと一言、

「一応、スパイだったんで」とニッコリ笑うフレイ。


 意外にこの子は強いかもしれない……いや強いか、両親を亡くし、自身は実験用のモルモットの様な扱いを受け、生きてきた……。


 心が強くなければ、やってやれないよな?


 改めて、彼女は僕が守ると、心に誓い僕はカーゴトラックから駆け出した。











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