第14話

 「綾波二式、六花勝利少尉、行きます!!」


 僕の声に、真砂サキさんの精一杯の大きな声が、叫びが聞こえる。


「六花少……六花さん!!ご武運を!!私達は待ってます!!」


 これ以上の声援があるだろうか?


 自然と、制御桿を握る手が強くなる。


 落ち着け!!思考はクリアに、制御桿はソフトに、感情は味方に。


 これは僕の戦人の師匠から言われた言葉だ。


 敵ならどう動く?思考をクリアにして考えろ……。


 師匠なら、この状況はどうにか出来たのだろうか?


 日本の戦人乗りで初めて専用機ワンオフを与えられたあの人なら……。


 敵は、僕を嬲り殺すのがお望みらしい。


 なら、初手はどうくる?多分奴らは……。


 綾波弐式を前進させる。剛力の射線が一気に、こちらに向くのを感じる。


 思った通り、黒い戦人双雷からの攻撃は無い。嬲り殺そうとするなら、狙うなら、脚部か兵装、もしくは腕部。双雷の攻撃では当たればワンキルになってしまう。


 それでは、相手がつまらない。


 綾波二式を一気に加速させて前進後、斜め前に小ジャンプ。


 剛力の兵装のほとんどが単射式のライフル。


 本当かどうかは知らないが、以前聞いた話では、戦闘時に消費した弾薬の管理をしやすくする為にフルオートのライフルは使わないとか何とか……話半分にしても、世知辛い話だ。


 そして、僕の考えが正しかった事を知る。


 射線は、ほぼ同じ場所を狙う。


 綾波二式の前方下部。


 どんなに早い弾でも狙っている場所が分かっていれば、避ける事は容易い。


 スピードの問題では無い、思考の問題だ。


『全弾回避だと!?ミスター田子!!彼の戦人には何か特別な装置でもついているのか!?』


『いえ、そんな話は聞いた事も無く……』


 作戦の読み勝ちだよ……。


 オープンチャンネルで、慌てているバカ二人の声にほくそ笑みつつ。


 さぁ、そろそろ全開じゃないと不味いだろうな。


 敵との距離を約十メートル。


 アサルトライフルを狙うまでも無く何体も同じ様な場所に固まっている十数体の剛力の腰部つまりコクピット部分に向かって薙ぎ払う様に打つ。


 ワンテンポ遅れた敵の攻撃を待つまでも無く。放たれたフルオートのライフル弾は、一気に剛力のコクピット付近を貫いて行く。


「良し、六機位は撃破したか?」流石に固まり過ぎていて全部の機体に当たる事は無い。


 前回迄の戦闘で、三分の一まで減っていたアサルトライフルの弾は一気に全弾打ち尽くした。


 そして、アサルトライフルを敵に向かってなげつけ、腰のハンドガンを抜き、投げたアサルトライフルに向かって打つ。アサルトライフルには二射分のグレネードランチャーが装填されている。


 凄まじい炸裂音と共に、アサルトライフルが爆発し、残りの剛力を大破させた。


 敵の配置と言い、射撃精度と良い多分、敵の軍は多対単機での戦い等あまりやった事は無かったのだろうな?


 これで敵の剛力は残り八機。敵がオープンチャンネルで喚いているが、訛りの強い言葉で良く聞き取れ無かった。


 聞き取れたのは『何なんだ奴は!?』とか『どうすれば良い!?司令官指示を!!』だろうか?


 僕は、腰からもう一丁のハンドガンを取り出すと両手に持つ。


 二丁拳銃だ。


「真砂小隊長、あなたの魂をお借りします。奴らを殲滅するまでお貸しください」


 僕はそう言って、制御桿に祈りを込めた。














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