第20話

 カプセルの中、一人の女声が眠っている。口には呼吸器、腕に点滴。


 急いでいるんだが……放っては置けないか。


 髪は長い銀髪、北欧系か?薄い硬質ガラスに囲まれたカプセルの中、良く見えない。長いまつ毛、形の良い唇……気がつくと僕は目を凝らしてジッと彼女を見ている事に気付く。


 参ったな、僕は自分が彼女に見惚れていた事に気付く。時間が無いって言ったのは僕だろう!!


 落ち着け、どうする?この状態でのやれる事は少ない。


 必要だったとしても敵の拘束、尋問に時間をかけ過ぎた。しばらく考え込んでいると、


「……さん!!六花さん!!」


 廊下の向こうから、声が聞こえる。思わず銃を向けると、


「待って!!六花さん、私です!!真砂です!!真砂サキです!!」


「えっ!?真砂さん?無事なの?どうやって!?」

 走って来た真砂さんは、僕に抱き着いてきた。目には大粒の涙を浮かべて、そこら中がホツレた制服が痛々しい。怖い思いをして来たんだろうな。


 彼女の抱き締める強さに、その不安と悲しみや恐怖を感じ、僕は真砂さんの肩を抱き「もう大丈夫、大丈夫だから」と頭を撫でる。


 たくさんの何故が頭に浮かぶが、最初に聞かなければならない事がある。


「真砂さん無事で良かった。所で追手は大丈夫なのか?」


「それが……」


 彼女は涙を拭って話してくれた。 


 僕が、基地に入り、援軍の雄二達と敵の剛力が戦闘に入った頃、最初は所詮、二機に何が出来ると高を括っていたて見ていたワンウェイと田子が、二機で九機の剛力を圧倒していく様子に、恐怖を感じたらしく田子が準備していた低高度用のヘリで脱出する事になったらしい。


 人数の関係で、最初は真砂さんも連れて行く予定だったが、乗ることは出来ないので真砂さんは殺せと他の兵士にワンウェイは命令した。


 そしてワンウェイ達はヘリに向かってしまい、最後に残った兵士に彼女は殺されると覚悟していた所。

「すまなかった。カズカズのヒレイはオワビする。だが、すべての大アジア帝国のへいしがこうだとおもわないでくれ」そう、たどたどしい日本語で拘束を外し天井に空砲を撃つと、

「しばらく、たったら、ニゲロ」と言って行ってしまったと言う。


「僕らが、戦っているのは人なんだね。つくづく思うよ」先ほど戦った李少尉を思い出す。あの人も、敵として出会っていなければ……。


 それにしても田子め、全てはアイツが大アジア帝国と手を組んで計画した事だったのか。


 ……待てよ、今アイツはヘイ・ワンウェイと共にヘリで逃げようとしているんだったな、


「外に、雄二達が戦っている。連絡してヘリごと撃ち落とす!!」

 僕は、連絡しようと通信をしようとするが、ジャミングによりノイズが多く通信が出来ない!?


「何故だ?さっきまでは大丈夫だったのに!?」

 思わず、廊下の壁を殴りつける。


 諸悪の根源を一気に葬る良い機会だったのに!!


「六花少尉、もしかすると指令室で田子指令……いえ、田子が通信装置を操作していましたが、それが原因かも知れません」真砂さんが、僕の隊服の裾を握って、不安そうに言う。


 くそっ田子の奴、こう言う所だけ抜け目無いな!!

「それが原因らしいな他分、多分アクティブ・ジャミングだ」


「あっ!!特定の周波数の妨害電波を積極的に送信することで、本来の電波の受信を妨害するんですよね?学校で習いました」


「正解、とは言ってもなぁ」どうする?指令室に向かうのは良いけど、このカプセルと真砂さんを置いて行く訳には……。


 間に合うかも分からないのに……。


「六花少尉!!行って下さい!!」


 真砂さんが、僕を見つめて言った。








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