第12話

 基地までの距離が一キロあった事を心から有り難く思った。


 第五の小隊長の最期の言葉を聞いた後だったら、怒りのままに突き進んでしまったかも知れない。


 第五小隊長真砂大地まさごだいちから聞いた最期の言葉はこうだった。


 敵の司令官はこう言った。


『基地は完全に掌握した。隠れている戦人は諦めて出てこい。さもなくば、貴様らの仲間を一人ずつ殺していく』要約すればこんな感じらしい。

 実際には、第五隊長の恨み節が乗っていた為省かせて貰った。


 僕の心にその恨み節は刻まれたので、問題は無い。


 そもそも、基地の位置、状況や各種情報が垂れ流しになったのが、我軍の司令官が第六小隊の断末魔を聞きたいが為に、通信をオープンチャンネルで聞いていたせいらしい。そこまで、バカだったのかと、頭を掻きむしりたくなった。


 敵の司令官は冷酷ではあってもバカでは無かったのだなと思ったと同時に、もし生きているなら例え軍規違反になろうが、うちの司令官バカはこの手で処分すると心に決めた。


 敵の司令官は悪役らしくこう言ったらしい。

『まずはこの女からだ、大人しくしていれば色々楽しませて、やったものを。私の顔にツバを吐きかけた。最初の一人目はこの女だ。名は真砂サキか?』


 これは、無理だ。仲間が殺されるだけでも耐えきる事は辛いはずなのに、彼女は真砂サキさんは、第五小隊長の家族つまり妹なのだ。


 しかし、これに反応したのは第五ではなく第七小隊だった。


『ふざけるな!!』小隊長の一声と共に走り出す三体の綾波二式。


 アサルトライフルをフルオートしながら前進。十機程固まって隊列を組んでいた剛力の内、一気に二機の剛力を穴だらけにする。

『こっちは、さっきの戦闘でお預け食らってるんだ!!フルでブチかましてやる!!』


 隊長機を前衛に矢尻の形で前進する攻撃重視の隊形クローズドデルタ。


 防御は隊長機に任せ、両翼の二機が攻撃に重視する第七小隊お得意の陣形。


『まだまだ、こんなもんじゃ無いぜ!!』第七の隊長機の両肩には複合装甲で出来たショルダーシールドが備え付けられている。


 生半可な攻撃など効くはずが無かった……のだが。


 ガシャシャーーン!!


 カミナリでも鳴ったかの様な炸裂音が響き渡り、第七の隊長機の上半身がシールド諸共吹き飛んでいた。



 第五の小隊長が見たのは、砂煙と共に現れた黒い戦人。頭部に鬼の様な二本の角を持ち両腕に巨大なキャノン砲らしき物を二門携えて仁王立ちをしていた。


『どうだ!!我らが帝国、最新の戦人。二門の超磁力砲レールガンを携えし最強の戦人、その名も双雷そうらい!!美しいだろう、この黒い装甲は?凄まじいだろう、この砲撃は?』


「第七!!逃げろ!!」第五の小隊長の叫びも虚しく隊長機がヤラれた事で、残りの二機も隊列を組んだ剛力の一斉掃射にボロボロになって崩れる。


 その後、残された第五小隊は更に剛力を三体倒したが、レールガンの二射目に仲間の戦人が上半身を吹き飛ばらされて大破。最後に残った隊長機は嬲られる様に剛力の攻撃を受け、戦闘不能になった。


『すまない、俺の力が……あれば……頼む、妹を頼む』言葉から力が抜けていくのが分かる。すまない僕には何もする事が出来ない。


「真砂大地小隊長、大丈夫です。何の心配もいりませんよ……後は、僕がいます」

 残り十機以上の剛力と敵の最新鋭機。


 コチラは一機。


 ここまで絶望的だと笑えるな……。


『俺は……隊長……失格だ……な、妹の為に仲間を……見殺しにしてしまった……』


「もう一度言います。僕が後は何とかします。妹さんを助けて、敵を殲滅します」


『あぁ、ありがとう……こんなに頼もしい言葉をきっ聞いた事が無い……後は頼んだよ、戦友とも……よ。無事に勝てたら……酒を奢らせて……くれ。サキ……どうか無事で……』それが真砂小隊長の最期の言葉だった。


「真砂隊長、あなたは隊長としては失格だったのかも知れない。でも……人としては、決して間違ってはいない、間違ってなどいない!!あなたは素晴らしい人だった」戦人をゆっくり歩きかせながら、深呼吸して心を落ち着かせる。


 今から、やらなければならない事は冷静で無ければ不可能なのだ。


 大破した隊長機が見える。そこ向こうに待ち構える様に剛力の十数機の隊列。更にその奥に黒い戦人、。僕の綾波二式は大破した第五の隊長機の前に跪き、脚部に収納されているマガジン式のハンドガンを抜き取る。 


「真砂隊長、それに皆、君等の魂は預かっていくよ……」


 綾波二式は、アサルトライフルを構えて立ち上がる。


『茶番は終わったかね?』オープンチャンネルに少し甲高い声が聞こえてくる。


『私は大アジア帝国十二師団司令官、ヘイ王偉ワンウェイ、君に会いたいと思っていたのだよ六花勝利君』含み笑いをしながら司令官最悪の男が話し掛けて来た。









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